年始に読んだ本のレビューです。
今年最初に読んだのは篠田節子さんの「長女たち」という作品でした。
2019年もマイペースに読書を楽しめたらなあと思いますので、よろしくお願いします。
「家守娘」、「ミッション」、「ファーストレディ」の3篇が収録された短編集です。
それぞれのあらすじ・感想をまとめました。
篠田節子「長女たち」 家守娘のあらすじ・感想
あらすじ
主人公の直美は、痴呆がはじまった母親の介護のために仕事を辞め、恋人とも別れる。
直美には別れた夫との間に高校生の娘がいるが、夫が育てている。
妹の真由子は早くに資産家の家へ嫁ぎ、家庭での役割を果たしている。
骨粗鬆症で体の痛みを訴え、介護サービスの利用を拒否する母…
そんな彼女に付き添う直美の生活に、光はさすのか。
感想
今のところ介護を必要とする人が身近にいないため、介護の現状はこうなんだな、ふむふむと読み始めた。
いつ自分が直美のような状況になるかわからないと思うと感情移入してしまう箇所も。
もしや介護のお話?と思いきや、それだけでは終わらない展開が待っていた。
また、骨粗鬆症という、名前しか知らなかった病の実情や諸症状も知ることができた。
長女と次女が登場するが、なるほど題名の通り、長女に対する母親の思いがリアルだった。
甘えやわがままは、血のつながりがあってこその態度と感じた。
ここからはちょっとネタバレになってしまうので、未読の方は飛ばしてくださいね。
終盤で明かされる幻の少女「ユキちゃん」。
ヘルパーもデイケアも拒否し続けた母のわがままや、幻視・幻想に振り回された直美。
しかし最終的にはそれらにより救われた。
希望がある終わり方で良かったと個人的には思う。
ミッションのあらすじ・感想
あらすじ
主人公の頼子は40代半ばの医師。
20代のころに母を亡くした彼女には、担当医だった園田の影響を受け、会社を辞めてまで医学部に入学し、医師になった経緯がある。
園田は途上国で村人の生活改善に尽力する中、死亡。
頼子の父と兄は、母が亡くなった後にその代わりを頼子に求めるようになるが、逃げるように園田が死亡した地での勤務を決意し、海を渡ることに。
そこで待ち受けていたものとは。
園田の死の真相は。
感想
頼子を実家に縛り付けようとする兄と父親の身勝手さに辟易したが、社会人生活を捨てて医学部を目指した頼子の決意も相当なものだと思った。
憧れを抱いた園田の死後、後を追うようにその地へ向かい医療行為を行おうとする頼子にたくましさを感じるが、やはり一筋縄ではいかない。
英語も通じず、衛生状態も悪い。
生活習慣、食生活などの影響で、短命で不健康な村人たち。
彼らの中にはいまだに「病は霊の仕業だ」など多くの迷信が残っていた。
なるほど確かに、医療が発達していない地域ではそう考える人々もいるのかもしれないとゾワッとした。
食べ物に対する偏見や、命の在り方の違い、文化の違いというのは確かに存在するのだと思った。
思い込みの激しい村人たちと向き合う頼子の姿は眩しくもあるが危なっかしくもあった。
頼子の粘り強さは、園田の死の真相解明には結びついたが敵も多く作ってしまったような気がした。
ファーストレディのあらすじ・感想
あらすじ
主人公の松浦慧子は父の経営するクリニックを手伝い、母の代わりに父の「ファーストレディ」を務めている。
母は糖尿病を患っているが、糖尿なんかで死ぬもんか、と食事の管理を拒否。
それを黙認する父と楽天的な弟の狭間で慧子の葛藤が続く。
母のはけ口となってしまった慧子はどう向き合っていくのか。
感想
舅姑を介護し続けた母の苦労、忍耐は相当なものだと思う。
後にたがが外れたように、買い物や食事を楽しむようになったのも分からなくもない。
しかし病気を発症してからも暴飲暴食し続け、慧子へみせた別の顔はあまりにひどい。
母の体を思いやった上での行動が伝わらないのももどかしい。
周囲から、美しく控えめだと思われていた母の本性はこうだったのか。
困ったときに手を差し伸べてくれた優しい母ではないのか。
糖尿病の家族と暮らしていくこと、支えていくこととは、という理解も深まった。
末期になると、糖分だけでなく塩分、水分、タンパク質の管理まで厳しく設定されるのかと驚いた。
塩を砂糖だと思い込んで紅茶に入れ、口にした母の様子を見た慧子が涙が出るほどに笑う描写に、空恐ろしさを感じたが、小気味よさを感じてしまう自分もいた…。
読み終えた直後はモヤっとした感じだったが、少し時間をおいて、ふと思うようになった。
慧子の決断、この話の結末についてはこれで良かったのかもしれない。