「愉楽にて」の主な登場人物
- 久坂隆之 53歳。製薬会社(久坂製薬)の副会長。
- 田口靖彦 55歳。老舗会社の三男。妻が莫大な遺産を残した。小会社の社長。
「愉楽にて」のあらすじ
スタンフォード大学で出会った久坂と田口。
物語はこの2人の視点で描かれていく。
久坂は社会的地位と富を手に、妻子と離れてシンガポールで暮らす。
容姿は平凡な久坂だが、東京と行き来するなかで数多くの女性たちと関係を持つ。
一方の田口は小さな会社の社長であり、あまり自由の身ではなかったが、妻の死がきっかけになりがらりと生活が変わる。
亡くなった妻は資産家のひとり娘であり、莫大な遺産を残したのだ。
舞台はシンガポールと東京、そして京都。
富と地位もある男たちの娯楽や遊び方がリアルに描かれた、500ページの長編小説。
感想
「愉楽にて」は、日本経済新聞(朝刊)の連載小説として話題になりましたね。
あいにくわが家では日経新聞は購読していないため、書籍化を待ちました。
ええと、まず最初に思ったのが、朝刊でこんなに刺激が強い小説を掲載していいのだろうか、という点です。過激な場面が多いんですね。笑。
日経を購読している年代や性別を意識したためでしょうか、林さんの小説で50代の男性が主人公というのはなかなか珍しい設定だな、と思いました。
久坂は社会的地位があり、好奇心が旺盛で次々と知性・意欲あふれる女性を口説き落としていく一方で、非常に用心深い行動をとる。秘密主義というやつですね。
親しいものにも自慢せず、大いに楽しむさまは妙に感心してしまいました。自慢したがる人って多いですよね。そのあたりはどうなんでしょう?私の偏見でしょうか。
小説の中にはあまり出てきませんが、久坂の妻は、家柄のちゃんとした美しい女。やはり久坂ほどの地位がある男の結婚相手というのは、つり合いが取れる人なんだなあ。
学生時代の久坂は史学科に進み、能の稽古に励む。
語学の習得が趣味で教養レベルが高く、博識。フィクションだとは理解していても、きっとこのような人もいるのでしょうね。
大胆な行動をとる久坂に対し、田口はどちらかといえば慎重な印象を受けました。
85歳になるわがままな母親から溺愛される田口は、オフィスビルの最上階を改装して暮らしながら、妻の遺産を手にするなど、こちらも桁違いの金持ち。
田口の母親と嫁たちとのいざこざ、というかこき下ろし、見下した様子もいいアクセントになっていたと思います。
田口と中国の学者、ファリンとのつかの間の恋もなんともいえず…。
漢詩を引用し思いを伝えるなんて、すごすぎますよね。
他に登場する男性たちが、創業者の一族やデパートの社長、料亭の息子、実業家など、とにかく華やかな世界の人々。
彼らが京都で遊ぶさまは、とにかく豪快で贅沢。別邸を持ったり、花街で遊んだり。
京都ならではのしきたりやルールも、ほーお!という感じでした。おそらくこの辺りはリアルなお話なのではないかな~と勝手に解釈しました。
女たちの媚びや、時折出る少女趣味も滑稽でした。
縁のない世界ではありますが、こういう世界もあるのでしょう。小説の中でくらい、現実離れした世界を見たいなというのが本音です。
IT業界の若き成功者が出てくるのも興味深く、IT社長ってこういう遊び方してるの??と驚きましたね。
林さんのエッセイを読んでいるような感覚になる箇所も多々ありました。
林さんがワインやオペラ、茶道や着物に詳しいということはエッセイを読んでいて知っていたのですが、それをうまく小説にしているあたりはさすがです。
私はせっかちなためか、小説は一気に読みたいタイプ。
そのため、連載小説は書籍化されてから読むことが多いんです。これって、私だけでしょうか!?
この「愉楽にて」も。500ページの長編ながら2、3日で読み終えてしまいました。
普段は「最後はどうなるんだろう?」と気になり、そちらを先に読んでしまうことも多いのですが(←おいおい!)、結末がどうこう、ではなく流れを楽しむ小説なのかなと感じました。
違う次元の世界をのぞいているようでとても面白かったです。
anan連載のエッセイをまとめた「美女シリーズ」も面白いですよ。
以前、ちらっと感想を書いた記事になります。