桜木紫乃「ふたりぐらし」について
「ふたりぐらし」は連作の短編集。
夫の信好(40歳)と妻の紗弓(35歳)が交互に語り手となる、10編。
映写技師をしていた信好は夢をあきらめきれず、定職にもつかずに収入が不安定。
看護師の紗弓は、親から信好との関係に反対されながらも結婚し、家計を支える。
1組の夫婦の日々の生活と、それをとりまく人々それぞれの関係性が描かれている。
「ふたりぐらし」の感想
まず感じたのは、「ふたりぐらし」をしたことがなかった10代の頃にこの本に出会っていても、今のように物語の中にすっと入っていくことはできなかっただろうな、ということです。
共感することなど出来ず、どういうことだろう?となっていたと思います。
「ふたりぐらし」は、相手のことも考えるわけなので、言い訳をするために嘘をついたりもするわけです。
作中の信好や紗弓の発言に対して、自問自答してしまう箇所が多々ありました。
これは私にとって新しい読み方でした。今までにはない読み進め方です。
メモを取るでもなく、言葉の意味を調べるでもなくページをめくる手をとめてしまいました。
なんだか、今の自分と向き合うことが出来たような気がしました。
と同時に、他人の思いももっと汲み取らねば…と、珍しく反省(すぐ忘れるけど・笑)。
私が特に印象に残ったのは2話目の「家族旅行」でした。
悪気なく、なんでも思ったことを口にしてしまう母親と、その言葉に傷つき戸惑う娘の紗弓。
紗弓が父と母と3人で旅行に行く、というストーリー。
母親の言動にヒヤッとしてしつつ、父親の優しさよ…。
世の中に、こんなに出来た父親がいるのかと思いました・笑。
達観しているかのようにみえた父親の本音が垣間見え、温かい気持ちになりました。
夫婦のかたちの描き方が、しみわたる作品でした。
夫婦だけではなく、親子、男女、近所、実家との関係性についても考えさせられました。
「ふたりぐらし」を読んだきっかけはラジオ番組
この本「ふたりぐらし」を読んでみようと思ったきっかけは、NHKのラジオ番組でゲストの方が勧めていたからでした。
本のページをめくったところで「短編集」だったのね、と。
そういえば、そんなことを言っていたような気も、しなくもない…!
というのも、この本が番組内で紹介されたのは去年の出来事。
ラジオ番組で紹介されていて、これは読んでみよう!となった本は、とりあえずメモしておき、後日本屋さんでチェックするのが日課になっています。
この「ふたりぐらし」もその中の一冊で、手に入れたのは早かったのですが、なかなか手にとることなく所謂「積読(つんどく)」本。
というのも、桜木紫乃さんの本を読んだことがなかったからです。
積読本の中から読む本を決めるとき、つい読んだことのある作家さんの本を選んでしまうんですよね。
特に、好きな作家さんの作品はいち早く読みたい。(←読むのが遅くなってしまった言い訳。)
さあて、次はどの本に手を伸ばそうかな、と悩むのもまた楽しい時間なんですけどね。
最後に
桜木紫乃さん…彼女の作品は、本屋さんでよく見かけていましたが、なんで今まで手に取らなかったのだろう!と少し後悔してしまうほど面白い話を描く方ですね。
はじめて読む作品が面白いと、次の作品にもつながりますよね。
もっと彼女の本を読んでみたくなりました。
今回の舞台は北海道でしたが、行ったことのない土地の風土や街の感じに触れることが出来るのも、読書の楽しみですよね。
普段読むことの多いミステリーの要素があるわけでもなく、何か衝撃的な事件が起こるわけでもないのですが、あっという間に読んでしまいました。
いい本だったな~、お勧めしてくれた書店員の方に感謝です。