有栖川有栖「こうして誰もいなくなった」について
有栖川有栖さんの「こうして誰もいなくなった」は、デビュー30周年を飾る作品集です。
ご本人曰く、有栖川小説の見本市みたいなもの、だそう。
短編から中編の作品が14篇(連作ではありません)収録。
あとがきには、どういった経緯でその作品を書くことになったのか、作品に対する思いなどが記されています。
この部分までも面白く、最後の最後まで楽しませてもらいました。
装幀・装画も素敵。
巻末には2019年2月の時点の著作リストも掲載されています。
有栖川有栖「こうして誰もいなくなった」の感想
「こうして誰もいなくなった」の感想を少しずつ紹介します。
「館の一夜」は、ラジオドラマとして放送されたものだそう。
結末を読んでほっこり!ちょっと甘酸っぱい話で、トップを飾るのにぴったりの内容でした。
「線路の国のアリス」は、鉄道ネタ満載のファンタジー。
鉄ヲタではない私が読んでも楽しく読めたのは、有栖川さんの筆致ゆえだと感じました。
「名探偵Q氏のオフ」はJTに依頼されて書いたというファンタジー。
最後の段落は頭の体操に良さそう(?)な、シュールな内容です。
楽しくなってきて、立て続けに3回読みました。Q!!
「まぶしい名前」はブラックユーモアが効いた作品で、関西版の夕刊に掲載されたものだそう。
関西在住の方は、彼の作品に触れる機会が少し多いのでしょうか!?羨ましいです。
「怪獣の夢」は、タイトル通り怪獣の夢の話。
寝る前にこの章を読んだら、本当に夢に怪獣が出てきそう・笑。怪獣の映画もアニメも一切観ない私ですが、時々、怪獣の夢をみます。そういえば怪獣について具体的でここまで考えたことなかったな、と。有栖川さんが言うように、確かに熱海に怪獣は似合う。
「劇的な幕切れ」は、ホラー。
平凡な人生を歩んできた主人公は、「劇的」なものを望んでいた。その望みは、人生の終わり(幕切れ)で叶うことに。
主人公の心のうつろいを見るに、個人的にはバッドエンドではない、と感じました。
「出口を探して」は、ラジオドラマとして書かれた作品だそう。
現実離れした設定ですが、あとがきでご本人が言うように、いわゆる「寓話」です。
「未来人F」は、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズのパロディだそうですが、未読の私。(勉強不足…!)
本家を読んでいたら、もっと楽しく読めただろうなと臍を噛む思いで読みました。小林少年や明智小五郎、怪人二十面相など、名前だけは知っているけど、という置いてけぼり感よ…。
「盗まれた恋文」は、本作で一番こわい話でした。
これは、ホラー…。見開き2ページの超短編のミステリにもかかわらず、ここまでこわい思いをさせられるとは…。さすがプロです。
「本と謎の日々」は本屋さんが舞台になったミステリ。
手書きしたPOPの行方、開店直後と閉店間際に来た買物客の正体、常連客の不可解なリクエスト、等々は、謎解きをしているようで楽しく読めました。特にお気に入りの作品です。
ご自身の書店勤務の経験を基にした箇所も少しあるそうです。
「謎のアナウンス」はラジオドラマとして放送されたそう。
主人公になぞなぞを出題する体の話なのですが、思わず一緒に考えてしまいました。ラストの種明かしまで、テンポよく読めましたが、正解を知り、そういうことか!!と膝を打ちました。
最後は表題作「こうして誰もいなくなった」で、唯一の中編。
赤座島、通称「海賊島」に招待された者たちが、次々と殺されていくというミステリ。
アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」をなぞらえた作品(未読!)であります。読んでないから先入観なしで読めるしね、なんて強がってみたりしても、やはり読んでいる人の方が楽しめるでしょうね。
(292ページに誤植らしき箇所を見つけましたが、気のせい?若しくはわざと?)
登場人物のネーミングですが、ユーモアに溢れているもの多々ありましたので、そのあたりのセンスにも注目です。
最後に
デビュー30周年、おめでとうございます。
長い間書きつづけるというのは、すごいですよね。
ファン歴でいうと15年くらい?ですが、有栖川有栖さんの作品はほぼ読んでいる…ような気がします。
ここ最近でいうと、シリーズものばかり読んでいたせいもあると思いますが、「こうして誰もいなくなった」の読了後はとても新鮮な気持ちになりました。
有栖川さんがファンタジーを書くとこうなるのか、とますますファンに。
ファンの方も、これから彼の作品を読んでみようとしている方も、読む価値大の一冊だと思います。
直近で読んだのは「インド倶楽部の謎」です。
こちらの記事で、あらすじや感想などを紹介しています。
神戸を旅したときに、そういえばこの作品の舞台が神戸だったなと思い出し、再読しました。