奥田英朗「ヴァラエティ」について
奥田英朗「ヴァラエティ」は、2016年9月に講談社から発売された短編集。
ショートショート作品を含む短編7本に加え、イッセー尾形さんとの対談(楽屋ばなし)や山田太一さんとの対談も収録。
全270ページ。
初出は「小説現代」、「オール讀物」、「読売新聞」、「野性時代」、「文芸ポスト」等。
あとがきも掲載されています。
以下、それぞれのあらすじと感想をまとめてみます。
奥田英朗「ヴァラエティ」の感想
「おれは社長だ!」のあらすじと感想
主人公の中井和宏は広告代理店に勤務していたが、38歳にして独立を決意。
仕事のあてがある中、後輩を引き連れ、会社の設立を試みるがーというあらすじです。
前途多難が予測される冒頭。
独立ってなかなか…とはいえ、笑える内容となっております。
自宅で読んでいて何度も笑い出してしまい、家族に変な目で見られてしまいました。
これは外で読むのは危険です。笑いをこらえる自信がないです。
キャラクター設定も◎
「毎度おおきに」のあらすじと感想
先ほどの「おれは社長だ!」の続編で、こちらもユーモアたっぷり。
社長になった中井和宏。
経営者ならではの苦悩はあるものの、会社や家族のためにと奮闘する姿はたくましい。
取引先の社長の調子のいいことといったら!
苦笑いするしかありません。
しっかり者の妻や、ちょっととぼけた子供たちがいい味を出してくれています。
「ドライブ・イン・サマー」のあらすじと感想
主人公は中村徳夫。
妻・弘子の運転で、彼女の実家へ向かう2人。その道中の出来事が描かれている作品です。
弘子は可笑しなヒッチハイカーを乗せたり、サービスエリアで見知らぬ老婆を乗せたり、追突されたり…。
予想外の行動に、徳夫は戸惑うばかり。
これもユーモア小説ですね。
登場人物が皆、ちょっと変・笑。
先が読めない展開に、ページをめくる手がとまりませんでした。
ショートショート「クロアチアVS日本」
これは、ワールドカップ(サッカー)のドイツ大会が行われたときの作品だそう。
3ページのショートショートです。
クロアチアの人からみた「クロアチアVS日本」。
ルールも知らないサッカーの話なので、ついていけるかな?と思いましたが杞憂に終わりました。
奥田さん、面白いな。
「住み込み可」のあらすじと感想
主人公は住み込みで仲居をしている瑛子。26歳のシングルマザー。
職場で友達を作ろうと、今日子という女に近づくが、そっけない態度。
今日子は地味で、上司からの嫌がらせにもひたすら耐え続けていた。
その訳はー。というあらすじ。
ミステリー要素がある作品で、個人的にはこの話が一番良かったです◎
今日子の正体にも驚きましたが、主人公の瑛子もなかなかの女。
あとがきによると、この話はオーム真理教の指名手配犯逮捕の話をモチーフにしたのだそう。
こう言ってしまうとネタバレになってしまうじゃないかと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。ぜひ読んでみて下さい。
「セブンティーン」のあらすじと感想
主人公の由美子は44歳。
高2になる娘の明菜が、クリスマスに外泊すると言い出したがー。といった話です。
娘の明菜の立場に近かった自分が、徐々に主人公である母親の年齢の方に近づいてきていることを思うと、時は確実に流れているんだな、と。
母親につく嘘って、バレてるんでしょうね・笑。
「夏のアルバム」のあらすじと感想
小学2年生の雅夫は、2つ上の姉と両親と暮らしている。
主人公が少年か、とちょっとテンションが上がらなかったのですが…
「おさがり」の自転車から学ぶ親戚づきあいのことや、人に対する思いやり、深い内容でした。
あとがきによると、ご自身の短編で「5本の指に入る出来」とのことです。
確かに、いい話。
最後に
どの短編も良かったのですが、対談のページも面白かったです。
奥田さんが影響を受けたという、山田太一さんとの対談は貴重なもの。
イッセー尾形さんとの対談で明かされた、奥田さんの少年時代のエピソード…
人を笑わせるのが大好きな子供だった、と知ることが出来たのも収穫の一つです。
今も「笑わせたい」という気持ちがあるそうで、前半のユーモア小説にも合点がいきました。
かと思うと、先日読んだ「罪の轍」は全く違った作風。
章扉のイラストをイッセー尾形さんが描いています。
イッセー尾形さんて多才な方だったんですね。
失礼ながら存じ上げていませんでした。(時々ドラマでお見かけするな、という程度の認識でした)