奥田英朗著「我が家のヒミツ」短編集
奥田英朗著「我が家のヒミツ」は、2015年9月に集英社から発売された短編集。
初出は「小説すばる」。
全276ページ
掲載時期は2013年~2015年。
※加筆訂正されて刊行とのこと。
2019年には、NHKのBSプレミアムでドラマ化されたようですね。
短編が6本収録されていますので、それぞれのあらすじと感想をまとめたいと思います。
シリーズ化していて、去年読んだ「我が家の問題」と同シリーズ。
最終章では、作家・大塚康夫の家族が再び登場します。
奥田英朗著「我が家のヒミツ」のあらすじと感想
「虫歯とピアニスト」のあらすじと感想
主人公の小松崎敦美は、歯科医院で事務をしている31歳。
患者としてやってきたのが、ピアニストの大西。
実は敦美は、大西のファンだったー。というあらすじです。
自分の勤務先に憧れの人がやってくるというシチュエーション、憧れますよね。
私だったらどうする?なんて妄想しながら読みました。
敦美は、義理の親との関係性にもやもやとした思いもあるが夫は優しい。
結婚すると義理の家族とも付き合わねばなりませんが、こればかりはなんとも、ねえ。
大西の奏法の描写のところで「グレン・グールド」(昔聴いていた)の名前が出てきたり、彼が語る人生観のようなものが素敵で、個人的にはこの章が一番好きです。
「正雄の秋」のあらすじと感想
主人公は植村正雄、勤続30年の53歳。
同機である河島との出世競争に負け、途方に暮れるーというあらすじ。
妻の美穂のさりげない気遣いが良かったです。
夫婦といえども立ち入ってはいけないことや距離の取り方ってあるものですからね。
前半は読んでいてめげてしまうばかりだったのですが、後半で盛り返します。
読み終えてみれば、気持ちも晴れやかになっていました。
「アンナの12月」のあらすじと感想
16歳のアンナには、実の父と育ての父がいる。
母親が再婚したのだ。
アンナは実の父に会いにいこうと連絡をとり、行動に移す、という話です。
この実の父というのが演出家で有名人なのです。
16歳の高校生にとっては、夢のような展開ですよね。
もちろん一筋縄ではいかない展開が待っているのですが、アンナの親友たちが、高校生とは思えないほど大人びた視点を持っていることに驚きました。
「手紙に乗せて」のあらすじと感想
主人公の亨は、母親の死をきっかけに実家へ戻ってきた。
大学生の妹と父親、3人での暮らしが始まった。
亨と妹の遥は、父親の落ち込みようにどまどう。
社会人2年目の亨に声をかけてくれたのは、会社の部長だったーという話。
思わぬ経験をしたときに、意外な人から言葉をかけられることってありますよね。
作中の「人生経験とは、悲しみの経験のことなのだろうー」という言葉が胸に刺さりました。
ちょっとウルっとくる作品です。
「妊婦と隣人」のあらすじと感想
主人公の葉子は、夫と暮らす32歳の妊婦。
マンションの隣に越してきた夫婦の様子が気になっていた。
引っ越しの荷物が少なすぎる、ほとんど外出しない、挨拶もしない。
夫の英輔は取り合ってくれないが、隣人への不信な思いは募るばかりーというあらすじ。
葉子の気持ちがちょっと分かります。
隣の人、何してる人かな?って気になりますよね。
でも葉子のように、コップを壁に当てて生活音を聞いたりはしませんよ。(当たり前だ!)
ミステリーのような要素もあって、純粋に面白かったですね。
結末はもやもやが残りましたが、葉子の行動力には驚かされました。
「妻と選挙」のあらすじと感想
主人公は作家の大塚康夫、50歳。
家族は、大学生の双子の息子2人と妻の里美。
里美が、議員選挙に立候補すると言い出したーという話。
康夫の視点からみる妻の「危険な兆候」や、「機嫌のいい時の笑み」を察知したときの彼の心中を思うと、笑いがこみ上げてきます。
果たして里美は選挙に当選したのでしょうかー?
まとめ
奥田さん、市井の人々を描くのがうまいなあ、と思います。
主人公は世代や性別がばらばら。
異性にもかかわらず、女性の気持ちがわかってらっしゃるのがすごい。
そうそう、そうなんだよ!なんて相づちを打ちながら楽しめました。
最後の章で、大塚康夫の一家が再び描かれていたのが嬉しかったです。
以前書いたレビュー記事はこちらです。
同シリーズの本になります。
前回では、里美がマラソンに奮闘する姿が描かれていました。
ユーモアたっぷりなのに、ほろっとくる場面も多い短編集です。