奥田英朗「噂の女」について
奥田英朗著「噂の女」は、2012年11月に新潮社から発売された本。
連作の短編集のようであり、長編小説のようでもある作品。
噂の女(糸井美幸)に関して、語り手を変えて物語が綴られていきます。
舞台は、とある地方都市。
10人の語り手たちがそれぞれの視点で、糸井美幸を描きます。
2018年には、BSジャパンでドラマ化されたようですね。
初出は「yom yom」、「小説新潮」。
掲載時期は2009年から2012年。
全310ページ。
先ほど散歩中に、沈丁花の花の香りに遭遇しました。
あの香りを感じると、もう春が近いんだなという気持ちになります。
さてここのところ、奥田さんの本ばかり読んでいる状況です。
「噂の女」は少し前の作品ですが、かなりおすすめの一冊。
あらすじと感想を簡単にまとめますので、良かったら参考にしてみて下さい。
奥田英朗「噂の女」のあらすじと感想
中古車販売店の女
北島雄一が、同僚らと中古車販売店にクレームを付けに行くと、中学の同級生・糸井美幸が事務員として働いていた。
雄一は美幸の存在が気になるが、同級生たちから「社長の愛人」であるとの情報を得るー。
同僚たちの下卑た会話に、ちょっと引きましたが、まあそんなもんなのかな~。
同級生との再会で垢抜けていたとなると、ときめく気持ちも分からなくはない。
麻雀荘の女
青木洋平が同僚たちと麻雀荘へ行くと、糸井美幸という従業員がいた。
好意を持った洋平は、周囲から美幸の情報を得ると…
かつて地味だった彼女は短大に入って変わり、社長の愛人という噂があったー。
洋平が働く会社の内実が明らかとなり、あっと驚く事実に、そりゃないよ!と突っ込みたくなりました。
料理教室の女
岡本小百合は結婚が決まり、料理教室に通うことにしたのだが、クラス内で講師の態度と食材の鮮度に不満が出ていた。
同じクラスにいた糸井美幸は直接講師に訴え、事務局をも巻き込むという大胆な行動を起こすー。
単発の料理教室に何度か参加したことがあるのですが、私には向いていないようで…どうも苦手ですね・笑。
世代が違いすぎた、というのもあるのかもしれません。
話がそれました。
感想ですが、あるクラスメイトからの「口利きして欲しい」要望のくだりにはイラっとしてしまいました。
主人公に感情移入しすぎず、さらっと読んだ方が良いですね◎
マンションの女
秋山大輔は、新婚の26歳。
義父は資産家。妻を亡くし、24歳の女(糸井美幸)と結婚するという。
妻ら4人の子供たちは反対し、大輔に話を付けてくるよう言い渡すがー。
これは想像できない展開でした。
美幸のしたたかさが全開に出ている章。
大輔は婿の立場とは言え、しっかりしてよ!と言いたくなる結末。
パチンコの女
麻衣はパチンコに通ううち、美穂と知り合いになる。
そして紹介されたのが、糸井美幸だった。
美幸は、麻衣と美穂にある「頼みごと」をする、という話です。
美穂が騙され、美幸に泣きつくあたりから、ますます面白くなってきます。
姉御のようなふるまいに、たくましさと貫禄が感じられます。
柳ケ瀬の女
博美は託児所で働く保育士。
利用客の中にクラブのママである糸井美幸がいた。
社長との子供を産んだが社長が急死し、遺産を相続したのだというー。
地方で暮らす博美の気持ちが、なんとなく分かります。
実家で暮らしながら家族を支え、ささやかな旅行を夢見て日々を過ごす。
博美の未来が明るいものであるといいな。
和服の女
長年役人の天下りを受け入れてきた業界で、ある社長がもう嫌だと言い出した。
副社長である息子・直樹の助言ではないか、という。
困った同業者たちは直樹を説得させるべく、クラブ「美幸」に連れていくことにー。
天下り、談合やしがらみといったものが次々と出てきて戸惑ってしまいましたが、建設業をうまくやっていくためには、こういう事も受け入れてきたのかな…。
賢く都会的な直樹のような息子を持つと、やっかみも生じるのでしょうね。
檀家の女
檀家に対する寺からの要求が度を越しているという。
世話役である和田たちは、檀家総代である糸井美幸に話をつけようとするがー。
地方において、お墓は重んじられているような気がします。
そこへ目を付けた糸井美幸の嗅覚といったら…!
お人好しの和田さんには、最後まで笑わせてもらいました。
内偵の女
刑事課の尚之は、 知り合いから捜査してほしい案件があると持ち掛けられる。
聞けば、ある女の周りで不審な死が相次いでいるという。
その女は、クラブ「美幸」のママー。
この章では、いよいよ美幸が怪しまれます。
警察の派閥やしきたりが生々しく描かれていて、それはあまりに酷いわーと思いました。
まあ、本当のところはわかりませんが…ヤクザと一緒じゃない!?
スカイツリーの女
議員秘書をしている美里は、「政治家のわがまま」に手を焼いていた。
開業が近いスカイツリーの入手困難なチケットを取るべく、美里は奔走するー。
最終章での糸井美幸は、クラブのママでありながら政治家の愛人、として登場。
物語の最後はどうなる?とそわそわしながら読みました。
いざ読み終えてみてみると、煙に巻かれたような印象の結末でした。
美里はどうなってもいいじゃないか、という自分でも予想外の感想を持ち、納得のいく終わり方でした。
最後に
ザ・エンターテインメント小説、ですね。面白かったです。
地方都市のあるある(噂話が娯楽であるとか、東京に対する憧れだとか)がギュッと詰め込まれていて、「分かる!」と叫びそうになりました。
残念ながら本を読む人が周りにいませんが、「知人におすすめしたい本リスト」に入れたいですね。
文庫版も出ていますので、ぜひ。