「あなたの不幸は蜜の味」イヤミス傑作選について
「あなたの不幸は蜜の味」~イヤミス傑作選~は、2019年7月にPHP文芸文庫から発売された女性作家のアンソロジー作品集。
著者は辻村深月、小池真理子、沼田まほかる、新津きよみ、乃南アサ、宮部みゆき。
全281ページ。
昨年、新刊本のコーナーで見つけた一冊です。
タイトルにぎょっとして、思わず二度見しました。
私にとってはおなじみの作家さんの他、はじめましての作家さんの作品も楽しめるいい機会だなと思って手に取りました。
6本それぞれのあらすじと感想を記します。
「あなたの不幸は蜜の味」あらすじと感想
辻村深月「石蕗南地区の放火」
主人公の笙子は、財団法人で働く36歳。独身。
実家の近くで不審火があり、かつて接点のあった男・大林と久々に顔を合わせることになった。
大林の過去の言動を思い出した笙子は、ある思いが頭をよぎるーというあらすじです。
後輩や親に対する、笙子のつまらない意地がひしひしと伝わってきました。
彼女のプライドの高さが、なんとも言えない感情を生み出します。
ただ、生理的に受け付けない男というのは確かに存在するものでして…描写の生々しさにぞっとしました。
小池真理子「贅肉」
主人公・裕美の姉は、かつては美しく、成績も優秀だった。
その姉が太りだし、裕美は嫌悪感を抱くようになるが、その心のうちにあるものとはーという話。
「贅肉」ってすごいタイトルですよね。
作中の、狂気を感じる食欲に圧倒されます。
食欲をコントロール出来なくなるというのは、精神的な要因もあるのでしょうが、前半で登場する人物の場合はそうとも言えず…。
不思議な余韻が残る作品でした。
小池さんの小説って、どんな内容であれ品が感じられて好きなんです。
沼田まほかる「エトワール」
主人公には吉澤という彼がいるが、妻(奈緒子)がいると告げられていた。
吉澤は奈緒子と別れると言うが、彼女についてあまりにもあけすけに語るため、嫉妬と敗北感を感じる主人公。
果たして奈緒子は、一体どんな人物なのかー。
タイトルのエトワールは、作中に登場するクレマチス「エトワールローズ」から来ています。
と書くと、さぞ美しい話かと想像してしまいますが、動物好きの人は読むのをやめてしまいそうなほど残虐なシーンがありました。
奈緒子の正体にも驚きましたが、気味の悪さでいうとこの作品が一番かな。
新津きよみ「実家」
主人公の篠田房子は65歳。
夫婦で年金暮らしをしているが、兄が亡くなった後の「実家」の相続に納得がいかない。
3人の子供に頼ろうとするも、皆にすげない態度を取られて途方に暮れるーというあらすじ。
これはあまりにも切ない結末でした。
金の無心をする息子、託児所のように孫を預ける娘、家庭を顧みない夫…。
どうすれば良かったのか、考えても答えは出ません。
乃南アサ「祝辞」
敦之は恋人の摩美から、朋子という親友を紹介された。
しかしその翌日から、朋子がうまく話せなくなっている(失語症)とのこと。
精神的なものが原因だというが、摩美はショックを受ける。
快方に向かった朋子に、敦之たちの結婚式の祝辞を頼むことにしたのだがーという話。
乃南さんの本は(多分)読破しているので、これは読んだことがある話でした。
結末は覚えていたものの、細部まで記憶していたわけではないため、十分に楽しめました◎
敦之にべたべたと甘える摩美の様子に、もやもや・笑。
男性たちは、こういう子に弱いのかなあ。
常識人のようにふるまっていた朋子の、度重なるぶっ飛んだ行動に慄きました。
乃南アサさんのエッセイ集「犬棒日記」のレビュー記事も、よろしければ。
宮部みゆき「おたすけぶち」
主人公の孝子が、10年前に「おたすけぶち(淵)」で交通事故死したはずの兄の痕跡を追うーというストーリー。
兄の遺体は、見つかっていないのだ。
トリは、安定の宮部みゆきさん。
ミステリーの要素を強く感じながら読みましたが、どことなくホラーな感じも。
兄の手がかりをつかむカギを握っていると思われる村の描写も、ぞくっとしました。
彼岸花で草木染めをするくだりでは(毒があるのでは?と)、ギョッとしてしまいましたが、色がきれいに出るために用いられるようですね。
これこそ、まさかの結末!!
宮部さんの作品は全て読んだつもりでいましたが、「おたすけぶち」を読んだ覚えがないんですよね。
(あるいは、きれいさっぱり忘れてしまったか…!)
まとめ
イヤミス、という先入観があった中で読んだので、ダメージは少なめでしたが後味は確かに良くないです。
既読だろうと思っていた作品が実は未読だったかも、という発見がありました。
長編ばかり読んでいた時期があるため、短編集も見つけたら読んでみようと思います。
文庫サイズで持ち運びやすく、外出先で読むこともありました。
表紙がおどろおどろしくてインパクトのあるタイトルなので、ブックカバーをつけることをおすすめします・笑。