まつりパンライフ

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宮部みゆき「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」のあらすじと感想

宮部みゆき著「三島屋変調百物語六之続」の表紙画像

宮部みゆき著「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」について

宮部みゆき著「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続(くろたけごじんかごてん・みしまやへんちょうひゃくものがたりろくのつづき)」は、 2019年12月に毎日新聞出版から発売された時代小説集。

 

時代小説って難しそう…という勝手な思い込みをしていた私ですが、学生時代に試しに読んでみた宮部さんの作品がまあ面白くてハマりました。

 

時代は違えど、人の思いや感情などは今も昔もそう違わないんですよね。

 

「三島屋変調百物語シリーズ」は、三島屋の店の奥の「黒白の間」で語られる百物語。

 

「おそろし」、「あんじゅう」、「泣き童子」、「三鬼」、「あやかし草紙」に続く、シリーズ6冊目。

 

決め事は「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」。

 

初出は毎日新聞。

連載時期は2018年8月から2019年7月。全569ページ。

 

シリーズ作品に共通して登場する人物の紹介を、簡単に。

語り手を迎えるのは、以下の3人。

 

  • 富次郎 三島屋の次男。物語の聞き手。22歳。
  • お勝 三島屋の女中。百物語の守り役。
  • おしま 三島屋の古参の女中。

※前作までの聞き手は「おちか」だったが、本作からは富次郎に。

 

その他の登場人物としては以下の通りです。

 

伊兵衛 三島屋の主人。富次郎の父。

お民 伊兵衛の妻。富次郎の母。

灯庵 口入屋の老人。通称「蝦蟇仙人」。

八十助 三島屋の番頭。

新太 三島屋の丁稚。

 

宮部みゆき著「黒武御神火御殿」の表紙画像

 

宮部みゆき著「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」のあらすじと感想

4つの物語が収録されていますので、それぞれのあらすじと感想をまとめます。

 

「泣きぼくろ」

語り手としてやってきたのは、一家で豆腐屋を営んでいた八太郎。

彼は、久々に会う伊兵衛の幼なじみだった。

 

14年前、八太郎が7つか8つの頃におこった出来事がもとで、家族がばらばらになった。

その経緯を語りに来たのだという。

 

富次郎が聞き手になって最初の語り手が、幼なじみ。

周旋する灯庵が八太郎を寄越したのには、彼なりの思惑があってのことでしょう。

 

八太郎が語った内容は、それは物の怪(もののけ)の仕業では…?

なんて思ってしまうほどおぞましいものでした。

 

「姑の墓」

語り手としてやってきたのは、富次郎の母と同じくらいの年頃の花という女。

桜の散る前にどうしても語っておきたいのだそう。

 

花が育った土地では、女たちが丘の上に行くことを禁じられていたというー。

 

花から語られたのは、彼女が子供の頃に経験したあまりにも哀しい話でした。

 

強い「怨念」のようなものって、肉体が消えても残るのかなあ…。

昔からのしきたりには、逆らわない方がいい場合もあるのかもしれません。

 

宮部みゆき著・時代小説集の見開きイラスト

 

「同行二人」

3人目の語り手は、今年50歳になるという亀一。

50という節目の年に区切りをつけるべく、話をしに来たという。

 

かつて彼は、飛脚問屋で働いていた。

 

妻と子を亡くし、現在も独り身でいる亀一が経験した、過去の出来事。

 

亀一の周囲でおきた、誰のせいでもない不幸な出来事。

そのせいで、彼はあるものに憑かれてしまう、という話。

 

人の心が弱っているときに付け込んでくるのは、生きている者だけではないのかもしれませんね。ぞっとします。

 

今のような郵便や宅配のシステムがなかった時代、代わりに活躍していた「飛脚」について知ることができたのも良かったです。

人の脚で、遠くへ荷物を届けていた時代もあったわけですよね。

 

「黒武御神火御殿」

本作ラストの4話目は、表題作の黒武御神火御殿

中編作品です。(前の三章は短編)

 

語り手としてやってきたのは、甚三郎。

全身に傷痕を残した男である。

 

かつては放蕩息子だったというが、その頃に迷い込んだ謎の屋敷での体験を語りに来た。

 

屋敷には、神隠しにあったように集まった6人の男女がいた。

武者、怪魚、化け物と次々と謎の生物たちに遭遇するが、皆の行く末はー。

 

甚三郎が語った体験談は、悪夢のようでした。

因果応報で片付けてしまうには、あまりにも残酷。

 

ハラハラドキドキの展開が待ち受けていました。

 

耶蘇教についての記述もあり、御法度とされていた背景が理解できました。

 

この章では、前作までの聞き手であるおちかが登場。

 

三島屋へ持ち込まれた印半天をめぐり、おちかの嫁ぎ先である瓢箪古堂の知恵を借りることにした富次郎。

おちかが幸せそうに暮らしているのを知り、ちょっと妬いてしまったような描写が微笑ましく感じました。

 

 

黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続 [ 宮部みゆき ]

 

まとめ

ページ数がある本ですから、一気読みとはいきませんが、外出が難しいときなどにおすすめの一冊です。

 

時代小説は、古風な言い回しを身近に感じることができるのも魅力のひとつです。この本でいうと、「鯔背(いなせ)」だとか「びいどろ」だとか。

 

とはいえ理解できない言葉も出てくるので、電子辞書を使いながら読み進めています。

 

初めて時代小説を読むという方にも、宮部さんの作品はおすすめです。

 

本作品はシリーズ化されているので、過去の作品を読むと三島屋におこった出来事も知ることができます。

富次郎の前に聞き手をしていた「おちか」には辛い出来事を乗り越えた過去がありますが、前作でめでたく嫁に行きました。