奥田英朗「イン・ザ・プール」短編集について
奥田英朗著「イン・ザ・プール」は、2006年7月に文春文庫から発売された短編集。
単行本として、2002年5月に刊行。
「伊良部シリーズ」の一作目。
伊良部シリーズは、精神科医・伊良部一郎と看護師のマユミが全話に共通して登場。
本作品は、5篇の短編が収録。
全279ページ。
奥田英朗「イン・ザ・プール」あらすじと感想
「イン・ザ・プール」
38歳の大森和雄は体調不良を訴え、伊良部総合病院へ。
伊良部による診断は、ストレスによる心身症。
和雄はストレス解消のため、プールで泳ぐことにしたのだがーというあらすじ。
水をかいて進んだり、息継ぎをする感覚…懐かしいなと思える実にリアルな描写でした。
泳ぐことからは遠ざかっている私でも、ちょっと泳いでみたいみたいかも、なんて。
伊良部、お前さんも泳いじゃうのかい、と突っ込みを入れたくなる展開。
和雄の妻の発言が、ユーモアと毒を持ち合わせつつ、現実的で的を射ている発言をしていた。
そして、とにもかくにもあっぱれ!なラスト。
「勃ちっぱなし」
田口哲也は、持続勃起症に悩まされていた。
症状が治まらないまま会社へ通勤し、伊良部の元へも通院するがなかなか良くならないーといった内容。
持続勃起症という、なんとも際どい名の症状。
初めて目にする症状だったため、著者である奥田さんの創造かと思いましたが、気になって調べてみたところ(←おい)、本当にこのような症状で悩まれる方がいるそう。
笑い事ではなく深刻な事態…
だけど、やっぱり可笑しい!
どのように収束したのかは、ぜひ読んでお楽しみください。
「コンパニオン」
タレント志望の広美(24歳)は、主にイベントコンパニオンの仕事をしている。
誰かに尾行されているに違いない、と友人に打ち明けるも神経科の受診を勧められる。
体調も悪くなり日常生活が送れなくなっていたため、伊良部の診察を受けることにしたのだがーといったあらすじ。
本書では唯一、女性からみた伊良部が描かれています。
まあ自意識過剰な女性でして、よくここまで…と失笑してしまうほどです。
広美のボディガードをやる、と言い出す伊良部。
日に日に洒落っ気づいていく伊良部。
プレゼント攻撃に加え、彼女に対してぐふふと笑う伊良部は、彼もオトコねー!と。
いや、もしかして治療の一環だったのか!?
「フレンズ」
高校二年生の雄太は、両親から携帯依存の心配をされていた。
神経科へ行くよう指示され、伊良部の診察を受けることになる、という内容です。
少し前の作品なので、作中には「iモード」や「ボタン操作」、「MD」といった単語が出てきます。時の流れを感じますね。
今でいう、スマホ依存の問題。
ケータイにのめり込んでしまう雄太に対して伊良部がとった行動は、やはり突飛なものでした。
お金があるって素晴らしい・笑。
高校生の男子と、肉感的な看護師・マユミの対面シーンがコミカルでした。
刺激が強いんだろうなというのは察しが付きますね。
ドライなマユミの言動が功を奏したような、いい結末でした。
「いてもたっても」
ルポライターをしている義雄は、強迫神経症に悩んでいた。
確認行為をせずにはいられなくなり、生活に支障をきたすようになる症状である。
伊良部の言う「本格的」な治療とはー?
その治療法はともかく(笑)、ルポライターとして、義雄は手柄を立てたわけです。
まさかこんな展開になるとは!
元栓閉めたっけ!?は私も気になってしまう方ですが、エスカレートするととんでもない事態になりますね。
異常なほど気になったりしたら、そりゃあ普通に生活できないだろうと思います。
最後に
本書では、伊良部がかつて結婚していた女性が登場します。
二人の罵りあい&取っ組み合いの場面が滑稽で、何度読んでもたまらなくおかしいです。
鬱々としていた気持ちも晴れやかになるくらい、とにかくパワフル(?)な伊良部。
こちらで紹介した「空中ブランコ」は、シリーズの続編になります。
おすすめです◎