三浦しをん 短編集「きみはポラリス」について
三浦しをん著「きみはポラリス」は、2011年3月に新潮社から発売された短編集。
単行本は2007年5月に刊行。
巻末の解説は中村うさぎさん。
全394ページ。
11の短編が収録されておりまして、全て恋愛小説です。
好きな作家さんの過去の作品を読んでみよう、とネットで検索して注文しています。
というのも、近所の書店が営業していたりしていなかったりという状況ですし、出かけるのもちょっとなあ、というわけで気になる文庫本をまとめて購入してみました。
「きみはポラリス」はその中の一冊です。
今回も、あらすじと感想をまとめます。
三浦しをん「きみはポラリス」あらすじと感想
永遠に完成しない二通の手紙
岡田勘太郎のもとへ、寺島良介が「ラブレターを書くのを手伝ってほしい」とやってくる。
気心の知れた男子たちの可笑しな会話ね、くらいに思っていたら…あら失礼、そういうことだったのね、と意外な方向へ向かう話でした。
この軽妙な会話の感じ、三浦さんて本当にうまいなあ、と思います。
裏切らないこと
妻である恵理花が息子に対して行ったある行為に、戸惑う岡村ー。
彼は、幼少の頃に近所で暮らしていたある老夫婦を思い出す。「裏切らないこと」とはーというお話。
私は老夫婦の話は本当だったと思うのですが、皆様はどう感じますか?
私たちがしたこと
カフェで働く主人公の朋代は、ランチを食べにくる客に好意を寄せていた。
しかし朋代には高校時代の暗い思い出があり、踏み出せないでいたーというあらすじ。
これはなかなか衝撃的な告白でした。
でも朋代さん、あなたはもう恋をしてもいいと思うけどな。
夜にあふれるもの
真理子は、校内で行われるミサで異様なほどの感受性を発揮し、失神するような子だった。信者というわけでもないのに。変わった子だった。
ときは流れー
主人公のもとへ真理子の夫が訪ねてきて「彼女はおかしい」と戸惑うー。
私には信仰心というものがないのでピンとこないのですが、ここまで素直に享受出来るって、ちょっとこわいような気も…。
骨片
亡き先生の骨片を、かつては宝物のように扱っていた朱鷺子。
しかし、次第に持てあますようになっていったーという話。
骨片をどうするか考える朱鷺子の妄想シーンが面白かったです。
そして、異様な存在感を出していたのが朱鷺子の祖母。
どこも悪くないのに、60年ほども寝床で横になって日々を過ごすー。
ペーパークラフト
里子が家族皆で出かけた先で会ったのが、夫の野球部時代の後輩・勇二。
ペーパークラフト作家をしているという。そこから家族ぐるみの交流がはじまる、という話。
こんな偶然てあるものかしら?と思いつつ、意外な展開にわくわく。
森を歩く
主人公のうはねは、恋人の捨松の正体が分からないまま共に暮らしていた。
うはねは彼を尾行し、何をしている人なのか突き止めようとするーというあらすじです。
なるほど、捨松の職業に納得です。
そして最後に明かされる、インディオのあいだで使われる「森を歩く」の意味に脱力・笑。
優雅な生活
主人公のさよりは同僚たちの影響を受け、恋人に「ロハスな生活をしよう」と持ちかける。
初めは難色を示していた彼だがーという話。
玄米や雑穀、無添加無農薬…大いに結構なのですが、突き詰めると随分窮屈な生活になるものですね。
この章は特にコミカルで笑えました。
春太の毎日
春太側から描かれる、麻子との日々。
こういう愛もあるよね、とあったかくなる作品でした。
冬の一等星
映子が8歳の冬に経験した話。
文蔵という男に誘拐(厳密には違うのだが、結果的には誘拐?)されたときの記憶をたどるー。
多くの小学生ならば泣き出してしまいそうな状況だけれど、映子は違っていました。
文蔵の思いやりや優しさ、知識が、映子の未来に大きく影響することになる、という展開◎
誘拐という物騒な書き出し→思いがけずとても良い話!
この作品、好きです。
永遠に続く手紙の最後の一文
最初の章に登場した岡田と寺島の、高校生の頃の話である。
倉庫に閉じこめられてしまった2人。さてどうする?というストーリー。
ああ岡田よ…。
切ないなあ。
まとめ
いわゆる「禁断のー」という愛や同性愛、初恋、等々。
私のような凡庸な人間には想像もつかないような、様々な恋愛の形があるのだなあと。
中村うさぎさんも解説で書かれていましたが、秘密がキーワードですね。
そして、うさぎさんの解説が表現力豊かで素晴らしいです。
さすがは作家さんです。
この解説を含めて「きみはポラリス」という作品が仕上がっている、と言ってもいいのでは?などと勝手なことを思ったりもしました。