朝井まかて「輪舞曲(ロンド)」の登場人物
朝井まかて著「輪舞曲(ロンド)」は、2020年4月に新潮社から発売された長編小説。
全299ページ。初出は「小説新潮」(2018~2019年掲載)。
輪舞曲(ロンド)を読むきっかけとなったのは「中瀬ゆかりさんの推薦本」、というところが大きいです。
どんな本を紹介しても、これは面白そう、読んでみたい、と思わせる話術を持っている中瀬さん。すごい。
今回特に興味を示したのは、作中で描かれている主人公・伊澤蘭奢(いざわらんじゃ、と読みます)という女優が実際に存在し、彼女が38歳で亡くなったという点。
早すぎる死、そして女優として花開くまでの人生が気になりました。
伊澤(伊沢)蘭奢という名前は聞いたことがなかったのですが、明治生まれの美しい女優さんだったとか。
あらすじと感想の前に、主な登場人物の紹介です。
伊澤蘭奢 新劇の女優。38歳で没。死因は脳溢血。
福田清人 東京帝大の学生。後に児童文学作家となる。
徳川夢声 本名・福原駿雄。活動弁士。
内藤民治 「中外社(出版社)」の設立者。蘭奢の愛人・パトロン。
伊藤佐喜雄 蘭奢の一人息子。
その他、当時の俳優・財界人・文化人などが数多く登場します。
実在の人物たちです。
朝井まかて「輪舞曲(ロンド)」のあらすじ
蘭奢が亡くなったのは、昭和3年。
女優としてこれからという38歳のとき、脳溢血で帰らぬ人となった伊澤蘭奢。
彼女の口癖は「私、40になったら死ぬの。」だったというー。
かつて彼女と親しくしていた男たちの視点から、蘭奢が描かれている。
朝井まかて「輪舞曲」の感想
身近にいた男たちの視点から語られる蘭奢。
演じることが好きな彼女は、夫も子供も手放すという相当の覚悟を持って故郷(島根県)を出た女性だったようですね。
大正時代における演劇の世界は、今以上に厳しさを感じました。
芝居が好き、というだけでは到底勤まらない職業ですし、女性の地位も現代よりかなり低かった時代でした。
そして、女性が芝居だけで食べていくというのは無理で、パトロンがいるとか実家が裕福でないと、という現実にも驚きました。
蘭奢の場合は内藤というパトロンが存在したわけなのですが、この内藤という人物、世界を飛び回るかなりの大物。もう、なんというか、スケールが違うんですよね。
内藤と徳川夢声が罵りあう箇所が、いくつかあります。
相性が良くないのか、男同士の嫉妬なのか?もう滅茶苦茶です。
決して気持ちの良いものではないのですが、弁が立つ者どうしの言い合いというのはこういう感じなんだろうな、と少々愉快な気持ちにさえなってくるような…。
夢声は常にアルコールを嗜んでいるのですが、あれはもう依存症の域ではないのかしらと心配になるほどでした。
ところで。
作中には東北出身者が少しばかり出てきまして、お国訛りを隠さず話します。
祖父母が話していたような「~っしゃ」、「~っちゃ」などと話すシーンがあったり。
さすがに今の世代は使わなくなっている語尾ですが、東北の人、というか宮城県で暮らしたことがある人は思うところがあるのではないでしょうか。
私の場合、懐かしくなりました。
蘭奢の愛人である内藤が唱えた「生活信条」、「俳優鉄則」とやらがちょっと面白い内容なので、ぜひ確認してみて下さい。
裏表紙に描かれているのは、作中に登場する茉莉花でしょうか。
茉莉花っていい香りがしますよね。
最後に
明治生まれの蘭奢ですが、亡くなったのが昭和3年。
昭和3年というと祖父母も生まれていませんから、私の年代で伊澤蘭奢を知っている人はそう多くはいないと思います。
お時間がある方は、彼女の画像を検索してみて下さい。
日本人ばなれした華やかな顔立ちの、それはそれは美しい女性です。
作中に登場する人物は存在していた方たちですので、気になった人物を調べてみるのも、楽しいと思います。
私の場合は、同郷の上山草人を検索してみました。
宮城出身者にこのような方がいたとは知りませんでした。