林真理子「綴る女」評伝 宮尾登美子について
林真理子著「綴る女」評伝・宮尾登美子は、2020年2月に中央公論新社から発売された本。
全220ページ。
婦人公論の連載(2017年2月14日号~2018年2月27日号)に、加筆修正し書籍化された一冊です。
少し前に近所の書店で目に留まった本です。
新刊本のコーナーの目立つところに積んでありました。
林さん、また本を出したのねと嬉しくなって手に取りました。
しかし恥ずかしながら私は、宮尾登美子さんの本を読んだことがないのです。
果たしてそんな私でも楽しめるのか?と不安な気持ちもありましたが、読んでみましたので感想等をまとめてみます。
林さんといえば先日、ラジオにゲスト出演されていました。
一つはTFMのディアフレンズ、そしてもう一つはNHKのごごカフェ。
後日、配信サービスで拝聴しました。(オンタイムではTBSを聴いてしまう!)
どんな話をするのかな?と思っていましたら、去年発売された「私はスカーレット」(文庫版)についてが主でした。
それから、コロナ禍での過ごし方や娘さんのことなど。
あとは日本文芸家協会の理事長に就任なさったそうで、そのお話もされていました。
林さんの元気な声が聴けて、こちらも元気をもらえました。
時々でいいから、メディアに出て欲しいです。
林真理子「綴る女」評伝 宮尾登美子を読んでみて
宮尾登美子さんは大正15年、高知生まれの女流作家。
数多くの作品が映画やドラマなど、映像化されたのだそうです。
記憶に新しいところでいうと、2008年の大河ドラマ「天璋院篤姫」でしょうか。
チラ見でしたが、あおいちゃんが大層可愛かった。
先日電話で母と話していたときに宮尾さんの話題を振ってみたところ「とても人気があって、お母さんも読んでみたことがある」との発言。
お母さんて小説読むの?という心の声はさておき、あまりにも生々しい内容で(ごにょごにょ…)、との感想。
「綴る女」の前書きによると、林さんは宮尾さんと交流があり「いつか先生の伝記を書きたい」と伝えていたそうです。
「櫂」など自伝的小説に描かれている登場人物は実在しているのか?内容は本当だったのか?を探ろうと思った、と。
林さんは実際に高知に足を運び、宮尾さんの親族や親友など、付き合いのあった方々に取材なさっています。そして、それをもとに「実際はこうだったのではないか」と推測し、見解が述べられています。
さて。宮尾さんの父親は遊郭で「芸妓娼妓紹介業」を営んでおり、母は娘義太夫(愛人)でした。聞き慣れない職業に戸惑ってしまいましたが、大正時代ですからそんなこともありましょう。
実母ではなく養母に育てられた彼女ですが、その養母と父が離婚することになったとき、養母と暮らすことを選択しています。
ごくごく平凡な家庭に生まれた私は、もうこの時点でくらくらします。
遊郭?愛人?生い立ちが衝撃的。
大正生まれというと、戦争も経験している世代です。
満州での壮絶な体験も、作品として書き残しているのだとか。
「自伝的小説」とは言っても、多少の脚色はあったでしょうし、描きたくない部分もあったことと思います。
周りの方たちの話を聞くにつれ、学歴にコンプレックスがあったことや秘密主義なところがあったこと、借金についても、騒がれていた事実とは異なる箇所があることなども分かったようです。
保育所で共に働いていた方や、宮尾さんの若い頃を知る人の証言が聞けたというのに驚きました。皆さん、長生き!そして、林さんの行動力もすごい。よくここまで話を聞くことが出来たなあ、と。
宮尾さんは晩年、周囲との連絡を断ったと言います。
そして2014年、88歳で亡くなります。
あくまでも「評伝」なのですが、小説を読み終えたような気持ちになりました。
最後に
「林真理子さんの話題の新刊」というだけで読んでみた私。(同じような方、いらっしゃるかな。)
宮尾登美子さんは、かなりドラマチックな人生を歩まれた女性ですね。
彼女の名前しか知らない私ですら「へぇ~!」と興味深く楽しめましたから、小説やエッセイを読んだことのある方は、より感慨深く読める一冊ではないでしょうか。よくここまで調べたなあと感服しました。
林さんが何度も読んだというのが「櫂(かい)」という作品。
私も興味が出てきました。読んでみたいです。