遠田潤子「銀花の蔵」の登場人物
遠田潤子著「銀花の蔵」は2020年4月に新潮社から発売された小説。
全325ページの、書き下ろし作品。
第163回、直木賞候補作。
初めて読む遠田潤子さんの作品。
「はじめまして」の作家さんの本を手に取ることは少ないのですが、中瀬ゆかりさんの紹介がとても熱を帯びていたので、これは面白いに違いない!と思いまして。
案の定、とても面白くてぐいぐい引き込まれました。
あらすじと感想を紹介します。
以下、主な登場人物です。
銀花 主人公の女性。
尚孝 銀花の父。醤油蔵の長男。絵を描くのが好き。
美乃里 銀花の母。料理が得意。
多鶴子 尚孝の母。
桜子 尚孝の、年の離れた妹。
大原 醤油蔵の杜氏(とうじ)。
剛 大原の息子。
福子 大原の妻。
遠田潤子「銀花の蔵」のあらすじ
再来年に大阪万博を控えた1968年ー。
銀花の父・尚孝は老舗の醤油蔵の長男だが、画家になるべく家出していた。
しかし彼の父親が亡くなり、一家3人で奈良県の実家へ戻ることになった。
尚孝の実家には、彼の母親である多鶴子と妹の桜子が暮らしていた。
多鶴子は厳しい人で、桜子は銀花と1つ違いの美少女で、いつもツンとしていた。
醤油蔵には家を守ってくれる座敷童がいて、当主にだけその姿が見える、という言い伝えがあったー。
銀花が小学4年生から、「お祖母ちゃん」と呼ばれるまでを描いた物語。
遠田潤子「銀花の蔵」の感想
中瀬さんもおっしゃっていたのですが、これは銀花の人生を描いた大河小説ですね。
普段はミステリーを好んで読むのですが、こういった物語も良いものです◎
登場人物それぞれの過去や、秘めていたことが明らかになるにつれて考えさせられました。とりわけ私は、あの強くて厳しい多鶴子の過去が衝撃でした。
家族とか血のつながり、出自って何だろう?と、年齢を重ねるにつれて心に響くようになってきたなと感じます。
学生の頃に読んでいたなら、ここまで感慨にふけることもなかったかもしれません。
醤油蔵に越してからの銀花の50年。
濡れ衣を着せられたり、尻拭いをさせられたり…。
辛抱強く頑張ったと思います。
夾竹桃って知っていますか?
以前、テレビか何かで毒性がある植物、というので目にしたことがありました。
きれいで可憐な花なのにこわいな、と妙に記憶に残っています。
銀花は母親を「夾竹桃のようだ」といいます。
娘の目から見た母親というのは厳しくなりがちですが、それでも可愛くみえた母・美乃里。嗚呼、彼女に毒の部分が無ければ…。
美乃里は、優しくて理解ある尚孝と一緒になり彼に尽くす。そういう生き方もあるんですね。
尚孝のおっきな愛、思いやりによって銀花と美乃里はどれほど救われたか。
このイラストは、作中の土鈴のふくら雀かな。
座敷童の言い伝えが招いたとも言える事態は、悲劇でした。
良い方向に向かってくれれば、と企てられたものだったにもかかわらず。
それでも銀花は、前へ前へと力強く進みます。
ジーンときてしまう場面もあり、我ながら少し動揺・笑。
とても面白いので、ぜひ読んでみて下さい。
これを機会に、遠田さんの作品をもっと読んでみようと思います。
最後に
東北育ちで現在関東で暮らす者にとっては、登場人物たちが話す関西の言葉が新鮮でした。
作中に登場する、古い柿の木。
そう、柿の木はうちの実家にもありまして、幼い頃に祖父と高枝切り鋏的なものを使ってもいだなあ。
もっとも、渋柿でしたので渋抜きをして食べるのですが。
読書は、こういったささいなきっかけから昔の思い出を蘇らさせてくれるのも魅力です。
余談ですが、醤油蔵にちなみまして少し。
10月1日は、醤油の日なのだそう。
そして、あの安住紳一郎氏は、しょうゆ大使!
この時期の日曜天国(ラジオ番組)は、醤油の話題で賑やかになります。