桜木紫乃「ホテルローヤル」について
桜木紫乃著「ホテルローヤル」は2013年1月に集英社から発売された連作の短編集。
全192ページ。
初出は「小説すばる」。掲載時期は2010年~2012年。
単行本化にあたり、加筆・修正を行ったとのこと。
第149回・直木賞受賞作品。
7本の短編が収録されています。
映画化された、とのことでふと原作が気になったので、取り寄せて読んでみました。
それぞれのあらすじ&感想をまとめます。
桜木紫乃「ホテルローヤル」のあらすじと感想
シャッターチャンス
恋人に「ヌード写真を撮りたいから、5キロ痩せて欲しい」旨を告げられた主人公の美幸。
撮影場所は、廃墟と化した「ホテルローヤル」。
かみ合っているような、いないような…?
恋人同士の関係性がもどかしくもあり、この先、2人がどうなるのかは読者の私たちが好きに想像していいのかなという結末でした。
本日開店
元・看護助手の幹子は、寺の住職と結婚。
檀家に体を差し出すことも仕事の一つである、と聞かされるー。
※本作のみ書き下ろし作品です。
いくら寺の維持のためとはいえ、さすがにこれはどうなの?と思ってしまいます。
幹子自身が感じている、数々のコンプレックスがそうさせるのでしょうか。
穏やかすぎる夫というのも、いささかこわいものですね。
えっち屋
「ホテルローヤル」というラブホテルを経営する家に生まれた雅代。
高校を卒業後、29歳まで家業を手伝っていたが廃業することに。
「えっち屋」と呼ばれる、アダルトグッズ等を扱う業者の担当・宮川と最後の始末をすることになった雅代だったがー。というあらすじ。
ホテルが廃業するきっかけになった出来事が明かされています。
こういうことがあると、確かに足が遠のくでしょうね。(商売は難しい。)
真面目な宮川の口から語られる事柄が、人柄とミスマッチな感じがして面白かった。
バブルバス
連絡の行き違いから、五千円が手元に戻ることになった主婦の恵は、夫をラブホテルに誘うというあらすじ。
恵の心の内は、決して満足できる日常ではないと読み取れます。
切り詰めた生活、舅との同居、子供たちの進路ー。
そんな恵の、思い切った行動にあっぱれ!を送りたい。
勇気あるなあ。でも、夫婦生活ってそうやって成り立っているのかもしれませんね。
せんせぇ
主人公は、単身赴任中の高校の数学教師・野島広之。
一年前、妻が長年にわたり不倫をしていることを知る。
一方、教え子である佐倉まりあは帰る家がないという。
行き場を失った二人の物語。
野島が、嫌悪までしているまりあに対し、自分の気持ちを吐露してしまう場面が切ない。
星を見ていた
主人公は「ホテルローヤル」の掃除婦として働く60歳のミコ。10歳年下の夫は働かずに家におり、3人の子供たちは家を出ている。
ある日、ミコの元に次男から手紙が届くー。
ミコは幸せなのかなあ。
こういう生き方もあるのかなあ。素直すぎやしないかい?と、色々考えてしまった一作。
ギフト
42歳の田中大吉には、ラブホテルの経営で成功したいという夢があった。
大吉は妻子がありながら、年若い愛人・るり子に夢中になるーというあらすじ。
こ、これはどうでしょう…。
大吉は、本妻とも愛人ともうまくやっていきたいという無茶な願望を持つのです。
都合が良すぎるなと思いました。すげーな、としか言えない・笑。
最後に
「ホテルローヤル」にまるわる短編集。
解釈の仕方が、読者にゆだねられるような箇所が多くみられました。
ネガティブな私は、この状況は無理だ、と悲観的になるシーンにしばしば出くわしました。
主人公の気持ちになって思考してみると、どうしたら先に進めるのか?救いはあるのだろうか?と。
桜木紫乃さん、ラブホテルを経営していた家庭で育ったと公言なさっていますね。
そのときに感じたあれこれを、創作を交えて小説にしてしまうというのは、さすが作家さん。
映画ではどんな風に描かれているのか?
気になります。