宮部みゆき「我らが隣人の犯罪」(短編集)について
宮部みゆき著「我らが隣人の犯罪」は1993年1月に文春文庫から発売された短編集。
単行本としては平成2年に刊行。
初出掲載誌は「オール讀物」、「週刊小説」、「小説現代」、「問題小説」。
掲載時期は昭和62年~平成元年。
宮部さんの初期の頃の短編集です。
昭和の頃に書かれた作品が、今なお発売されているって凄い…!
この本、とーっても面白いんです。ベストセレクションの棚に並べてあります。
なのに、まだ記事にしていなかった(!)ので久々に読み返しました。
5本の作品が収録されていますので、それぞれのあらすじ・感想をまとめます。
宮部みゆき「我らが隣人の犯罪」のあらすじと感想
我らが隣人の犯罪
主人公は、中学一年生の三田村誠。
引っ越し先の新居で、騒音トラブルに巻き込まれる。
音の発信源は、隣人が飼っているスピッツーというあらすじ。
表題作ですね。
誠は、妹の智子と両親の4人暮らし。
ごくごく常識的な両親で、穏便に問題を解決しようと試みますが、うまくいきません。
そこで登場するのが、叔父の毅彦。
毅彦は策を練り、誠らとある行動に出ます。
「犯罪」というタイトルが示す通り、良い行いとは言えないのですが、理由が理由だけに罪悪感なく楽しめた作品。
ラストは痛快◎
この子誰の子
14歳のサトシは、両親の留守中、見知らぬ女性の訪問を受ける。
突然やってきた女性は恵美と名乗り、赤ん坊を連れていた。
「お父さんの恋人」だと主張する彼女の狙いはーというあらすじ。
恵美の強引な居座りには戸惑ってしまいますが、悪い人ではなさそうなんですよね。
滅茶苦茶な事を言っているのですが、母性は感じられるし、時折見せる影の部分が気になります。
また、14歳の複雑な少年の心中が巧みに描かれています。
温かい気持ちになりました。
今後、この手の問題が出て来ないとも言い切れないな…とも思った作品。
サボテンの花
教頭の権藤は、6年1組の生徒らとその担任との間で板挟みになっていた。
卒業研究の課題(サボテンの超能力の研究)について揉めているのだー。
穏やかではない始まりなのですが、泣けるほどいい話◎
謎がうまく散りばめられていて、読み返せば読み返すほどに発見があった作品。
記事に残すに当たり、今回だけで4~5回は読みました。
お酒が大好きな教頭先生の夢が、こんな形になるなんて。
いやー、すごいですこれは。
巻末の解説で、北村薫さんも「無条件降伏」なんて書いているんですから。
少年らの描写も素晴らしく、後に発表される作品の人物像と共通するものを感じました。
祝・殺人
刑事の彦根は、妹の披露宴で明子という女性に声をかけられた。
彦根が現在捜査中の事件に関して、話したいことがあるという。
事件というのは、営業マンの男性が殺害→バラバラにされたというもの。
この作品、主人公は彦根なのですが、明子の見事な推理でほぼ完結、という珍しい(?)構成。
読み手のこちら側も彦根と同じ立場で、明子の発言に引き込まれていきます。
明子が美人のエレクトーン奏者で彦根の好みである、という設定もいいですね◎
読み終えると、冒頭に記されている憲法の一文に唸らずにはいられません。
気分は自殺志願(スーサイド)
なんとも奇抜なタイトルですが、あらすじは以下の通り。
小説家の海野周平は公園を散歩中、中田という中年男性から「わたくしを殺していただきたい」と言われる。
中田氏は周平の職業(推理作家)を知っていて、なんとかしてくれるのでは?と声をかけたわけなのです。
突拍子もない言動ですが、中田氏はある病にかかって悩んでいたのです。
周平は、なんとか中田氏が良い方向へ舵を切れるよう行動するのですが、よくこんな事を思いつくものだな、と。
誰も傷つけない見事な解決策です。
中田氏の真摯な振る舞い、素敵でした。
まとめ
どれもこれも、素晴らしく面白い短編です。
その後に待っているのが北村薫さんの解説。
なんと、なんと。
これは、とても嬉しい。豪華すぎませんか。
増刷に増刷を重ね、多くの人々に読まれているのも納得のミステリー短編集です。
私の手元にあるのは「47刷」ですが、今発売されているものは表紙がチェンジされています。また新しく刷られた、ということですかね。
イラストに描かれているのは、表題作に登場するスピッツの「ミリー」かな。