まつりパンライフ

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吉田修一「湖の女たち」のあらすじと感想

吉田修一「湖の女たち」背表紙画像

吉田修一「湖の女たち」の登場人物

吉田修一著「湖の女たち」は、2020年10月に新潮社から発売されたミステリー小説。

 

この本を手に取った経緯を簡単に説明しますと、ラジオ番組で紹介されていたから、です。

もう去年のことになってしまいますが、中瀬ゆかりさんが本気でオススメしていました。これは間違いなく面白いだろう、と期待大。

 

過度の期待はハードルを上げてしまうのですが、面白かった。引き込まれました。

 

あらすじと感想の前に、主な登場人物をさらっとご紹介。

 

豊田佳代 介護療養施設「もみじ園」のスタッフ。

濱中圭介 西湖署の刑事。

濱中華子 圭介の妻。

伊佐美 圭介の先輩刑事。

 

市島民男 「もみじ園」の入居者。100歳。

市島松江 民男の妻。94歳。

市島さゆり 民男の娘。

 

池田立哉 雑誌の記者。25歳。

 

服部久美子 もみじ園のスタッフ。ユニットリーダー。

服部三葉 久美子の孫。中学二年生。

小野梓 もみじ園のスタッフ。

松本郁子 もみじ園のスタッフ。

 

初出は「週刊新潮」。掲載時期は2018~2019年。

単行本化にあたり、加筆・改稿したとのこと。

全318ページ。

 

吉田修一「湖の女たち」のあらすじ

琵琶湖近くの介護施設「もみじ園」で、100歳の男性が死亡。

 

施設側の過失なのか人工呼吸器の故障なのか、警察が捜査に乗り出した。

施設のスタッフは、刑事らの執拗な取り調べに疲弊ー。

 

一方、記者の池田は別件の取材中にもみじ園の事件を知ることになる。

そして、被害者の妻から話を聞かせてもらえることになるーというあらすじ。

 

吉田修一「湖の女たち」の感想

「湖の女たち」は、介護士・佳代の視点、刑事・圭介の視点、記者・池田の視点、そして被害者の妻・松江の視点から描かれるミステリー作品です。

 

何度か読み返しましたが、刑事である圭介の多面性に注目しながら読んでいた部分が多かったような気がします。

職場の先輩や家族の前での振る舞いと、異様とも言える性癖。

 

圭介は事件を通じて知り合った佳代と、奇妙な関係性に発展。

彼女の従順さに、戸惑う自分がいました。どうして?と苛立ちさえ覚えてしまうほど。

 

皆、どこかしら歪んだ部分があるのかもしれませんが、淡々と描かれる圭介と佳代の姿は解せないなあ、とも思ったり。

 

吉田修一著「湖の女たち」表紙

 

社会問題に向き合わされる部分も、多くあります。

差別的な発言をした議員や、厳しい取り調べによる冤罪、等。

 

今読めばタイムリーだなと感じますし、後に読んでも確かにあった事実である、と振り返ることが出来るでしょう。

 

第4章で触れられているのは、旧日本軍の731部隊。

受け入れがたく、目を背けてしまいたくなる事が描かれていますが、知っておくべき歴史だと思いました。

 

この章では、被害者の妻・松江の回想シーンがあります。

若き松江が、かつて夫と暮らした中国のハルビン。ここにもまた、湖が。

 

凍てつく冬の湖と丹頂鶴の群れ、という神秘的な風景とは対照的に、彼女が見てしまったものはあまりにも残酷な現実。

知ってしまった事実を、松江はその後も忘れることなど出来るはずもなく、生きてゆくのです。

 

松江の回想シーンは、ラストの第5章につながってくるわけなのですが、その流れは見事としか言えません。

 

まとめ

芥川賞作家の作品は難しい、という偏見があった私ですが(失礼ですね)、必ずしもそうとは言えない、という事を思い知りました。

ミステリーは好きなジャンルなので楽しめた、というのもあるかもしれません。

 

それにしても、驚きのラスト(犯人)。

これは想定外の結末

 

エンタメの要素もあり、人間の泥臭さみたいなものも存分に感じられました。

 

琵琶湖やハルビンの人工湖の描写がうつくしかったです。

湖面の色や風の様子が、目に浮かぶようでした。