宮部みゆき「とり残されて」について(短編集)
宮部みゆき著「とり残されて」は、1995年12月に文春文庫から発売されたミステリーの短編集。
※単行本は1992年9月に発売。
全357ページ。
単行本として世に出たのは、もう30年近く前のことなんですね。
今年は少しずつ過去作品を読み返し、記録に残していくとという作業をしていきたいと思います。
「とり残されて」は独立した7本の短編集です。
それぞれのあらすじ・感想を紹介します。
宮部みゆき「とり残されて」のあらすじと感想
とり残されて
養護教諭をしている主人公の女性は、校内で子供の足音を耳にする。
足音の主は男の子で、夢にまで現れ、話しかけてくるー。
そんな折、勤務先の小学校のプールで死体が見つかった、というあらすじ。
表題作です。
時空を超えた物語で、不思議な余韻が残る作品でした。
おたすけぶち
これは去年読んだ短編集に収録されていた作品。
内容を覚えていましたが、改めて読んでもコワい話でした。
感想については、過去記事のリンクを貼っておきます。
私の死んだ後に
主人公は野球選手(投手)。
酔って言いあいになり、ナイフで刺された。
意識がぼんやりする中、あの世への案内役だという女性があらわれる。
野球に関係する話のような出だしだったので、ルールが分からない私はがっかり…、だったのですが、なんていい話なんだろう、と泣けてくる内容でした。
野球に対して無知でも主人公の思いはくみ取れるし、謎めいたことを言う女性の正体を知り、何とも言えない複雑な気持ちに。
居合わせた男
鳥羽は、特急列車で乗りあわせた女性たちから、勤務先での「事件」を聞かされた。
社員が自殺したというが、単なる自殺ではないと言う彼女たち。
鳥羽は彼女たちの話から、真実は別のところにあるのではないかとの思いを抱く。
もしかして…?
というところからの、鳥羽の冷静な推理が見事。
前半の楽しげな雰囲気が一転、後味は決して良くない結末でした。
囁く
幼なじみの雅子が「お札が話しかけてくる」、と主張する上司がいたとのこと。
主人公の「僕」は幻聴に違いない、と決めてかかるがー。
この先の展開が怖かったです。
タイトルの「囁く」って、そういう事だったのかあ。
いつも二人で
主人公の男性が、若い女性の幽霊に取り憑かれるという話。
「身体を貸してほしい」という。
女性の幽霊の企みを知り、すごい念だなと感じ入ってしまいました。
練りに練った計画を実行に移すさまの描写が、リアルで面白かったです。
でも、なんか泣ける。
たった一人
ラストの「たった一人」は、切ない話。
主人公の永井梨恵子が調査員の男性を訪ね、「毎晩のようにみる夢について調査してほしい」、と依頼するところから話がはじまります。
この夢には、なにか意味があるのでは?と考える梨恵子。
思わぬところから糸口が見えたかと思いきや…。
現実には到底あり得ない設定なのだけれど、ありそう…(というか、あってほしい!)と思わせる展開。
完全に梨恵子側に立っていました。
「信じるのも信じないのも自由だと思う」とあるように。
まとめ
7本のどれもが、素晴らしく面白い作品でした。
90年代に発表された本が、絶版にならず今も発売されている、という事実が作品の面白さを裏付けていると思います。
時空を超えた設定やオカルトの要素が加わる作品って、どこかさめた視点で読んでしまう場合もあるのですが、宮部さんの作品は、そうならないから不思議。
なぜか、心に沁みるのです。