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奥田英朗「沈黙の町で」のあらすじと感想

奥田英朗「沈黙の町で」の表紙画像

奥田英朗「沈黙の町で」の登場人物

奥田英朗著「沈黙の町で」は、2013年2月に朝日新聞出版から発売された長編小説。

 

初出は朝日新聞。新聞の掲載時期は、2011年5月~2012年7月。

加筆修正し、単行本化したとのこと。全512ページ。

 

以下は、主な登場人物の紹介です。

 

飯島浩志 2年A組の担任。30歳。

豊川康平 桑原署の刑事。飯島の高校の同級生。

名倉祐一 2年B組の生徒。老舗呉服店の一人息子。

 

市川健太 2年A組の生徒。

坂井瑛介 2年A組の生徒。母子家庭。

藤田一輝 2年B組の生徒。祖父が県会議員。

金子修斗 2年B組の生徒。

安藤朋美 2年A組のクラス委員。

清水華子 2年B組の担任。

宍戸潤一 校長先生。

 

高村真央 新聞記者。

橋本英樹 検事。28歳。

 

名倉寛子 祐一の母。

名倉康二郎 祐一の叔父。名倉呉服店の専務。

坂井百合 瑛介の母。建設会社勤務。

市川恵子 健太の母。スーパーのレジのパート。

 

奥田英朗「沈黙の町で」のあらすじ

桑畑市立第二中学の名倉祐一が、校内で転落死。

遺体の背中には、つねられた痕があった。

 

警察は、祐一と行動を共にしていた4人の男子同級生を傷害容疑で逮捕(14歳未満は補導)した。

皆、祐一と同じテニス部のメンバーである。

 

4人は取り調べで、いじめについては認めたものの、死亡したことについては知らない、と言う。

 

名倉祐一の死は、いじめを苦にした自殺なのか?

それとも、事件か事故かーというあらすじ。

 

奥田英朗「沈黙の町で」の感想

この物語の語り手は、複数人にわたります。

逮捕された生徒の担任(第一発見者でもある)、加害者とその母たち、刑事、死亡した生徒のクラスメート、遺族の母、検事、新聞記者など、違った立場の人々がそれぞれの視点で語ります。

 

少しずつ明らかになる、名倉の人物像。

生前の名倉祐一を知る者、今回の件で初めて彼を知る者、捉え方は少しずつ違います。

 

警察やマスコミは、中学生が相手となると普段と同じように仕事を進めるわけにはいきません。そのあたりの難しさも、伝わってきました。

14歳に達しているか否かで、同学年でも処遇が違うというのはモヤっとしますね。

13歳なら児童相談所に送致、14歳ならば逮捕です。

 

どこかで線引きをしなければならないので、致し方ないのかもしれませんが。

 

加害者側の母親から描いたことで、自分の息子がクラスメートの死に関わっているかもしれない、という不安がひしひしと伝わってきてリアリティがありました。

 

奥田英朗著「沈黙の町で」背表紙

 

舞台は、桑畑市という北関東にある地方都市とのこと。

地方都市ならではの「あるある」が、具体的に描かれていて面白かったです。

いかにもありそうな事例でした。

 

死亡した名倉祐一の同級生・市川健太が語り手になるあたりで風向きが変わったように思います。

同じ部活に所属していた健太の目線から描かれることで、祐一のキャラクターがより強く出てきました。

故人となったことで「気の毒」一辺倒だったのですが、なかなか個性の強い人物でして…。お坊ちゃまで、宇宙人と呼ばれるほど変わり者、という意外な一面もありました。

 

中学生は、自宅と学校の往復の日々です。

友達との関係性が大きく作用してくる時期でもあります。

大人たちからみれば狭い世界ですが、当人にとってみればその世界しか知らないため、必死に周りと合わせたりするのも、理解できる気がします。(限度はありますが。)

 

結末は、とてもすっきり◎

 

まとめ

奥田さんの作品のファンなのですが、本作はいじめを扱った作品、ということで敬遠していました。

どうせ暗い気持ちになるに違いないという、つまらない先入観です。

しかし、ミステリー小説を読み進めていくような高揚感が続き、奥田さんすごい!読んで良かった!と思える作品でした。

 

ところで、奥田さんの小説といえば、度々出てくるユニーク、かつぶっとんだ人々。

今回でいうと、名倉の叔父である康二郎や、弁護士の堀田などでしょうか。

これらの人物の登場に「出た!」と変な期待をしてしまう私。

 

本作はシリアスな内容ということもあり、笑ってしまうような展開にはなりませんでしたが、周囲を巻き込む煙たい人物というのは、読み手にとって良いスパイスになるな、と。