まつりパンライフ

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遠田潤子「雨の中の涙のように」のあらすじと感想

遠田潤子著「雨の中の涙のように」の表紙画像

 

遠田潤子「雨の中の涙のように」

遠田潤子著「雨の中の涙のように」は、2020年8月に光文社から発売された小説。

初出は「小説宝石」。掲載時期は2017年~2020年。

全293ページ。

 

去年読んだ遠田さんの「銀花の蔵」が良くて、もう少し彼女の著作を読んでみようと、本作を選びました。

 

8編から成る連作短編集です。

どの話にも関わってくるのが「堀尾葉介」。

彼はアイドルを経て俳優に転身。

演技力も評価され、人柄も申し分ないスター

 

各編のあらすじと感想をまとめます。

 

遠田潤子「雨の中の涙のように」のあらすじと感想

垣見五郎兵衛の握手会

伍郎は、姪が読んでいた雑誌の中に見覚えのある少女を見つけた。

伍郎が役者を目指していた頃、交際していた女性の娘に似ているー。

 

少女はアイドル活動をしており、伍郎は握手会に行くことを決意。

苦い扱いを受けてしまいますが、読後感は爽やか。

 

それと、回想シーンでのこと。

「スター」になる人は、何から何まで違うのですね…。

 

だし巻きとマックィーンのアランセーター

主人公は、商店街で鶏卵店を営む章。

店の名物はだし巻き卵である。

独り身の章に、お見合いの話が持ち込まれたーというあらすじ。

 

お見合い話を強引に進める夫妻には苦笑してしまいましたが、時と場合によってはうまく作用するのかもしれない!と信じられない気持ちに。

だし巻き卵をめぐり、こじれていた隣のパン屋との関係。

思わぬ形での収束に、心が凪いだ。

 

ひょうたん池のレッド・オクトーバー

アメリカでフライフィッシングのガイドをしている、村下九月。

23年ぶりに日本に帰国した彼の、「白い傘の女」の回想ー。

 

九月が管理していた「ひょうたん池釣り堀センター」でのアバンチュール、とでもいいましょうか。

誰かが傷つく恋愛は、読んでいてツラい。

 

レプリカントとよもぎのお守り

龍彦は、恋人の経営するレストランの仕事を手伝っている、元潜水士。

車椅子の女性の手助けをしたことから、その夫婦が店の常連に。

好感を持った龍彦は、店外でも手助けをするようになったがーというあらすじ。

 

「ヒモ」であると自覚して劣等感を抱く龍彦と、レストランの利益を出すためなら何でもやる、という野心家の恋人。二人の出した結論が意外でした。

 

遠田潤子著「雨の中の涙のように」の目次

 

真空管と女王陛下のカーボーイ

丸子浩志はペット探偵をしている。小3の息子・晴也と2人暮らし。

妻を亡くした後に鮎子という恋人が出来、再婚を考えているがーというあらすじ。

 

8歳の息子を抱え、父は悩んでいました。

晴也は良い子で、父性あふれる話。この章の登場人物は皆、優しい。

 

炭焼き男とシャワーカーテンリング

山奥で「炭焼き」をしている男が、俳優の堀尾葉介に接触を試みる。

有名人の彼に、ある人の話を聞いてもらうためだった。

バイク便の仕事をしていた頃、親切にしてくれたお得意様の、とても悲しい話ー。

 

これは悲しすぎました。

こんなこと、あってほしくない。

 

ただ、炭焼き男の「今」に救われた。

 

ジャックダニエルと春の船

貨物船の船長をしている順二は、父の法要のために故郷に戻った。

悪友たちに絡まれたことから、昔、いじめられている転校生を助けてあげられなかった小学生時代の過去を思うー。

 

故郷での出来事は、順二にとっては耐えがたいものであったため、去ることを選択。

それでも、折に触れて思い出してしまうものなのですね。

忘れたくても忘れられない事、ってありますから。

 

美しい人生

ラストの主人公は、この本の鍵となる人物・堀尾葉介

昔、彼の家族間で起こった「事実」が明らかにされます。

 

皆が魅力的、という葉介でしたが、葬ってしまいたい過去があったのです。

過去は変えられないけれど、皆に求められるまま、自分の道を歩んでほしい。

 

失ったものは大きいけれど、ここからがスタートなのかもしれないなと思いました。

 

まとめ

タイトルの「雨の中の涙のように」というのは、映画に出てくる台詞として、登場人物のひとりが紹介するフレーズです。

 

著者はおそらく、多くの映画を観ているのだと思われます。

名優の名や、劇中のシーンが描かれる場面がたくさん出てきますから。

映画を全く観ないので、知っている映画が一つもなかったのがお恥ずかしい限りなのですが、まあこれは仕方ない・笑。

 

皆、葛藤を抱えながら生きているのかもしれません。

「恵まれている」、と世間から思われている人でも。

 

「銀花の蔵」も良い作品でしたが、本作も面白く読み終えることができ、大満足です。