東野圭吾「卒業―雪月花殺人ゲーム」の登場人物
東野圭吾著「卒業-雪月花殺人ゲーム」は、1989年5月に講談社文庫から発売されたミステリー小説。
※単行本は、1986年に発売。
全371ページ。
増刷を重ね、今なお書店に並ぶベストセラー作品です。
東野氏の作品は学生時代に随分読んだつもりでおりましたが、こちらはおそらく未読。
読んですぐに「加賀」という人物が登場するのですが、もしかしてあの「加賀恭一郎」
かな?と思いましたら、なんと、あの加賀恭一郎でした!!
後に刑事として活躍する彼の、学生時代の物語です。
これは売れ続けるのも納得、の面白さです。
とても面白かった。
では、主な登場人物の紹介から。
特に表記がない場合、T大学の4年生です。
相原沙都子 文学部の学生。
加賀恭一郎 社会学部の学生。
金井波香 文学部の学生。
牧村祥子 文学部の学生。
藤堂正彦 理工学部の学生。牧村祥子の恋人。
若生勇 テニス部所属の学生。
伊沢華江 テニス部所属の学生。
南沢雅子 沙都子らの高校時代の恩師。茶道部の顧問。
三島亮子 S大の剣道部の学生。
佐山 事件の担当刑事。
東野圭吾「卒業」のあらすじ
大学の卒業まであとわずか、という時期-。
沙都子は高校時代からの仲間たちと過ごしていたが、そのうちの1人である牧村祥子が、下宿先で死亡しているのを発見する。
状況からみて自殺かに思われたが、不審な点が見つかった。
その後、沙都子らのもう一人の仲間までも亡くなるという、2つめの事件が起こる-。
東野圭吾「卒業」の感想
物語は、沙都子と恭一郎が語り手となって進んでいきます。
沙都子は、祥子の「第一発見者」に。
仲間が亡くなっているのを見つけてしまう、というショッキングな事態に加え、当初は「自殺」と考えられていました。
祥子の下宿先「白鷺荘」は、管理人がいる女性専用の学生アパートであるため、外部からの侵入は難しいという状況。いわゆる密室。
動機の心当たりもないので、納得がいかない沙都子たち。
これは、もっともだと思いました。
何の相談もないまま、突然仲間がこの世から去ったとしたら、受け入れられないだろうなと。就職先も決まっていましたし。
祥子は日記をつけていたため、手がかりを見つけようとするのですが-。
几帳面に毎日日記をつけている人の場合、「空白」から導かれることもあるのか、と思いもよらぬ視点でした。
高校時代の恩師・南沢先生の存在が印象深かったです。
茶道部の顧問をしていた彼女。
優しくて懐が深く、「師」と呼ぶにふさわしい女性です。
読書をしていてこういった人物に出会うと、自分も「きちんと生きよう」なんて思ったりします。
第2の事件現場は、南沢先生の自宅。
副題に「雪月花殺人ゲーム」とあるように、「雪月花之式」というカードゲームの最中に、再び仲間が亡くなります。毒物によるものでした。
雪月花之式は茶道のくじ引きゲームなので、色々な可能性を憶測することが可能です。
自殺もありうるし、他殺もありうる状況。
他殺の場合、仲間の中に犯人がいるということになるため、沙都子は疑心暗鬼に。
仲間が出場した学生剣道大会での「八百長事件」も持ち上がります。
この件が、本筋の事件と関係性があるのかどうか?も気にしながら読みました。
恭一郎によるトリックの考察は、うなるばかり。
知識を駆使し、小さなヒントから広げていきます。情に流されることなく、いつも冷静な彼が導き出した、驚くべき回答と真実。
寂しさの残る結末にはなりましたが、学生時代を回顧できた作品でした。
まとめ
学生時代の恭一郎は、剣道一筋。
当時から、まっすぐな性格だったことがうかがい知れます。
そして、密室に対する恭一郎の考察が鋭かったです。
「加賀恭一郎シリーズ」のファンの方は(もちろん読んだことがない方も)、学生時代の彼が描かれている本作、楽しめると思います。
ミステリーとしても面白いのですが、父親との確執や、教師になると決めていた彼の心中が描かれています。
学生から遠ざかれば遠ざかるほどに、思い出って美化されていくなあとしみじみしてしまいました。