宮部みゆき「魂手形(たまてがた)三島屋変調百物語七之続」について
宮部みゆき著「魂手形(たまてがた)三島屋変調百物語七之続」は、2021年3月に角川書店から発売された時代小説。
初出は「小説 野性時代」2020年2月号~2021年2月号。
加筆修正を行い、単行本化とのこと。
全293ページ。
「三島屋シリーズ」の最新刊です。
このシリーズは、聞き手(おちか→富次郎へと引き継がれた)がいて語り手がいて、というスタイル。
本作には3本の作品(短編&中編)が収録されていますが、共通して登場する人物を簡単に紹介します。
富次郎 聞き手。袋物屋・三島屋の小旦那(自称)。
伊兵衛 富次郎の父。三島屋の主人。
お民 富次郎の母。
おしま 三島屋の女中。
お勝 三島屋の女中。
おちか 先代の聞き手。貸本屋に嫁いだ。
宮部みゆき「魂手形 三島屋変調百物語七之続」のあらすじと感想
火焰太鼓
語り手は、勤番武士の中村新之助。
今から20年前、彼が10歳の頃の出来事。
当時21歳の兄・柳之助、そして嫂(あによめ)のよしが登場。
城の方から聞こえてくる法螺貝の音を耳にしたよしは、「お太鼓様」に変事があったのだと言う。
「お太鼓様」とは火消しのときに使う太鼓で、打ち続けると鎮火するといわれていた。そんな矢先、柳之助が怪我をしたというので駆け付けることになりー。
後日、富次郎が涙してしまったことからも分かりますが、これは泣ける。
嫂は、あるときからこうなることを悟っていたのかもしれませんが、なすすべもない状況だったのでしょう。
よしの出自に、驚きました。
働き者で料理上手な彼女。心穏やかに暮らせますように。
一途の念
美味しいものが大好きな富次郎。
そんな彼がひいきにしている串団子がある。
おみよという娘が屋台で売っている、焼き団子だ。
今回の語り手は、そのおみよ。
母親を亡くしたばかりのおみよが、兄から聞いたという父と母の身の上話を語ります。
器量よしだったという母、お夏。そのおかげでひらけた道もあれば、そうではないこともあったそうな。
病に倒れた夫、起こってしまった不幸な事件。
お夏は、生きていくためにあの選択しかなかったのです。
…にしても、酷な現実。
タイトルは「一途の念」ですが、「念」によって視覚さえもコントロールされることって、あるのかもなあ。
働き者のお夏の血が流れているおみよ。
どこかで元気にやっていける、と信じています。
魂手形
表題作のラスト。
語り手としてやってきたのは、塩辛声の粋な老人、吉富(きっとみ)。
彼が15歳の頃に経験した出来事。
当時、吉富の一家が営んでいた木賃宿に、お客としてお化けが泊まったという話。
このお化け、気の毒なんです。
これは成仏できないよね、と同情してしまうほどでした。
吉富も吉富で、理不尽な目にあっていたのですが、新たにやってきた母・お竹の登場によって状況が一変。
このお竹が強烈なキャラで、なぜか好感が持てました。
不愛想で口が悪く、大女、と散々な書かれようですが、正義感があって実は優しい。強くてかっこいいのです。
さて、この話の結末はいかにー。
私は、色々とほっとしました。
「三島屋シリーズ」の前作をまとめた記事は、こちらです。
まとめ
前のシリーズから、聞き手がおちかから富次郎に。
おちかが直接登場することはないのですが、幸せそうな様子がうかがえました。良かった◎
挿し絵が多く、よりイメージが膨らませやすかったです。
それにしても、宮部さん独特の人物描写、素晴らしい。
これこれ、この感じ、待ってたのよ。という具合です。
語り手の姿や声までもが、映像でみえてくるよう。(正解かどうかは置いておいて・笑。)