乃南アサ「いっちみち」について
乃南アサ著「いっちみち」~乃南アサ短編傑作選~は、2021年3月に新潮文庫から発売された短編集。
全376ページ。
学生時代から、乃南アサさんの作品のファンでした。
以後、新刊は読んでいたので「短編傑作選」ならば既読のものばかりかな?と思いました。
しかし、巻末の「底本一覧」を見ると随分前の作品だったり、去年の「小説新潮」に発表された作品だったりしたので、読んでみることに。
やっぱり、面白かったです。
読んで正解◎
では、それぞれのあらすじと感想のまとめです。
乃南アサ「いっちみち」のあらすじと感想
いっちみち
表題作。
主人公の芳恵は現在、愛媛県、松山の介護施設で働いている。
コロナウイルスが流行り始めている中、「どこか行きたい」と思うようになり、30年ぶりに大分県の臼杵まで行ってみることにしたーというあらすじ。
芳恵が16歳のとき、故郷を離れなければならなかった事情が、あんまりです。
家族のゴタゴタに巻き込まれ、当たり前に来るはずの「明日」が断たれてしまうという悲劇。
しかし、行動をおこした先に、あのような出来事が待っているとは…!
ルール
とある家庭…両親、娘、息子の4人。その家族のルール、にまつわるお話。
中学1年生の息子が、「ダニがー、ばい菌がー、」と言い出したところから、家族を巻き込む大騒動になっていきます。
母親は家中のものを「きちんと揃えて」置きたいと言い出し、次第に娘も感化されるように。
皆が納得できるような「ルール」を決めて生活することは大事かもしれませんが、こんな結末が待っていたらコワイ。
青い手
拓也は7歳の秋、祖父母の暮らす母の実家へ引っ越して来た。
祖父母らは線香を作る仕事をしていて、拓也も手伝うようになった。
しかし、同級生の盛人が何かにつけてからんでくるため、疎ましく思っていたー。
線香の原料に触ると、手が青く染まってしまうのだそう。
なるほどそれで「青い手」なのね、と納得していたら…こわいこわいこわい!
秘伝のお香が、まさかそんな…。


4℃の恋
主人公は、看護師の晶世。
自分が働く病院に祖父が入院中だが、もう長くはないという。
しかし、今亡くなられては困る晶世。彼女が取った行動とはー。
晶世と母親の関係、いいなあ。父親はさておき。
私にはとても出来ない芸当だからこそ、楽しんで読むことが出来ました。
夕がすみ
主人公の家で、従妹のかすみちゃん(9歳)を預かることになった、という話。
かすみちゃんは、両親と妹を亡くしていたー。
突然、7つ違いの女の子がやってきたら戸惑ってしまうかも。
でも、この「かすみちゃん」に嫌われたら大変。
主人公の兄の勘は、当たっていたことになります。
青い夜の底で
夢中になっている「彼」を、追う側の女性からみた物語ー。
この追い方は、アウト。
こういう心理で、歯止めがかからなくなってしまう人もいるのかな。
他人の背広
主人公の元基は研修帰り、他人の背広の上着を間違って着て帰ってしまったことに気付く。
腹を立てた元基は、背広のポケットの中にあった他人のお金を使ってしまうー。
後味が悪すぎ、プラス怖すぎるっていうので、覚えている話でした。
元基のようになってしまわないよう、コート等の取り違えには気を付けようと思った次第。
団欒
浩之は、助手席に女性の死体を乗せて帰宅。
事実を打ち明けられた家族らがとった行動とはー。
なんですか、この家族・笑。
仲の良い家族はいいけれど、こんな「家族団欒」があるとは。
確かに一蓮托生みたいなところはあるけれど、へーんなの。
息子も息子だけど、父も父だ。
まとめ
表題作は素直にいい話だわ、なんてほっこりしていたら、後はひっそりと怖い話。
内容を思い出しては、「やっぱりあの話」こわすぎる…と余韻に浸っていました。
傑作選なので、読んだことのある章もいくつか含まれていました。
しかし、大満足のチョイス。乃南さんの作品はどれも面白い◎