伊坂幸太郎「首折り男のための協奏曲」について
伊坂幸太郎著「首折り男のための協奏曲」は、2014年1月に新潮社から発売された本。
全315ページ。
7つの短編からなる本です。
初出の雑誌は、「小説新潮」や「yom yom」、「幽」だったりするのですが、連作の短編かと思う仕上がりになっています。
巻末のご本人の説明によると「並べ直し、手を加えて」いったらしいです。
全編を通して楽しく読むことができ、有意義な読書タイムとなりました。
以下、あらすじと感想をまとめます。
伊坂幸太郎「首折り男のための協奏曲」のあらすじと感想
首折り男の周辺
定年退職後の夫婦、人違いされてしまうパン工場で働く男、いじめにあう少年、の3方向からみた首折り男周辺の話です。
当の首折り男は、まだ登場せず。
いじめって、こういうささいなところから始まるのかな?(ツラい。)
でも、それで終わらないところが伊坂さんの作品の好きなところ◎
濡れ衣の話
3年前、息子を車の事故で亡くした男が、犯人の女性を殺してしまう。
そこへ現れた田中と名乗る謎の男性に、つい犯行を自供してしまうという話。
正直、一度目に読んだときはよく理解できなかったのですが、何度か読んでいますと…。
「田中」と言っているこの男性って、あの人ですよね。
僕の船
3か月前から、寝たきり状態の夫の介護をしている絵美。
探偵である黒澤に、ある男のことを調べて欲しいとの依頼をする。
50年前に銀座で会った、あの人のことー。
出ました、黒澤。
伊坂さんの作品で度々登場する、探偵で泥棒の黒澤。
さて。水兵リーベ、僕の舟、って懐かしいですね。
元素記号の覚え方からはじまるこの物語が、まさかこんなロマンチックな結末だとは。
この寝たきりのご主人、全部聞いているよね。(と思う)
黒澤の強引なこじつけ、意外に良かった。
人間らしく
「義理の弟の不倫の証拠がほしい」との調査を依頼された黒澤だが、その仕事の帰りに土砂崩れがあり、知人を頼ることに。
知人は作家で、クワガタの飼育に熱中しているー。
不倫問題と、塾でのいじめ問題。
この事例の「悪」は明確です。
クワガタの性質から、いじめへの考察の流れが面白い。
クワガタの悪意ね。ふむ。
作中の作家が考えているような神様、いたらいいのに。
ケース、覗いててよね。
月曜日から逃げろ
プロダクション勤務の男が、黒澤にある依頼をするところから始まる物語なのですがー。
この依頼主、イヤな奴でした。
だけどね。
ふふふ、と笑っちゃう仕掛けがあるのです。
最後まで読んでから「もしかして?」と気が付き、再読した次第。
相談役の話
作家の「私」と、大学時代のクラスメイトのやりとり。
山家清兵衛という伊達家の家臣の話から、山家を慕っていた常務の事故死(?)の話へー。
初出の文芸誌が「幽」ということで、ホラー作品。
ぞわーっとします。
フォーラス(仙台のファッションビル)の屋上に、山家清兵衛をまつった神社があると、どれほどの人が知っているだろう。
400年前、こんなやりきれない事件があったなんて。
合コンの話
タイトル通り合コンの話ではあるのですが、ちょっと独特な文体で仕上げてあります。
銀座で催された男性3人、女性3人の合コン。
プロの作家は、こうやって話を膨らませていくのか、と感動すらしてしまうほど読みごたえのある作品でした。
合コン中、話があっちへ行ったりこっちへ行ったり。
憤ったり、にやついたりしつつ、感動もあり。
首折り男の話も盛り込まれていて、着地が見事でした。
まとめ
時間をかけて、少しずつ読みました。
理解するまでに、時間がかかる作品もあったからです。
しかし、仕掛けに気付いたときの嬉しさ、楽しさがある面白い本でした◎
今年の読書の傾向をまとめると、伊坂さんの作品の再読が多かったように思います。
今の年齢だからこそ、ここまで夢中になって読めるのだろうと解釈しています。(気付くの遅すぎ)
仙台で働いていた頃にもっと熱心なファンだったならば、どこかで伊坂さんとすれ違えるかも!と、鞄に本を忍ばせて出かけていたかもしれない…。