篠田節子「失われた岬」の登場人物
篠田節子著「失われた岬」は、2021年10月に角川書店から発売された小説。
初出は「本の旅人」2018年10月号~2019年2月号、4月号~7月号、「小説 野性時代」2019年9月号~2020年8月号、10月号。
全575ページ。
年末からちびちびと読み始め、元日に読み終わったこの作品。
ほぼ600ページの長編ということもあり、読み終わるまでに長く時間がかかってしまいました。
読みごたえあり、の大作です。
お時間が取れる方は、面白かったのでぜひ読んでみて下さい。
では、主な登場人物の紹介です。
松浦美都子 主婦。
松浦和宏 美都子の夫。
栂原清花 美都子の友人。
栂原亮介 清花の夫。
栂原愛子 栂原夫妻の娘。
桐ケ谷肇子 蘭を栽培するパートタイマーの女性。
一ノ瀬和紀 ノーベル賞作家。
一ノ瀬杏里 和紀の妻。
相沢礼治 一ノ瀬和紀の担当編集者。
石垣 総合誌の契約記者。
岡村陽 元レコード会社社長。
金原秀夫 薬品検査会社の経営者。
アンソニー・ストラウブ 植物学者。アメリカ人。
篠田節子「失われた岬」のあらすじ
2007年の冬、突然、友人である清花と連絡が取れなくなった美都子。
家族ぐるみの付き合いがあり、尊敬に値するような存在だった清花の身に、何かあったのではと案じていた折、アメリカへ留学中の清花の娘・愛子から連絡があった。
両親の引っ越し先の北海道に来てみたものの、2人とも居ないのだという。
19年後、愛子の元へ母から手紙が届く。
美都子と共に、再び北海道を訪れた愛子は、ある岬で母親との再会を果たすがー。
そして2029年。作家の一ノ瀬和紀が、ノーベル賞の授賞式を前に姿を消した。
彼もまた、北海道のあの岬へと入っていた。
担当編集者の相沢は、一ノ瀬の消息を追うー。
篠田節子「失われた岬」の感想
前半は、あやしげな宗教の雰囲気が漂います。
特に信仰心を持たぬ者としては、未知の世界だけに引き込まれます。
話は2007年からスタートするのですが、後半は現在よりも少し先のことまでが描かれています。
最初の語り手は、40代の主婦・美都子。
憧れの存在だった友人の変貌ぶり(愛犬や車、インテリアを手放し、連絡を断つ)に、美都子は戸惑い、夫は「宗教だ」と決めてかかります。まあ、そうでしょう。自分に置き換えて考えてみても、宗教だと考えるでしょうね。一人娘を置いて、北海道の漁師町に消えたのですから。
あらすじのところにも書いた通り、北海道のある岬が鍵となる物語です。
この、謎多き岬に行くには、険しいルートをクリアせねばなりません。
「新小牛田」という北海道の漁師町の、さらに先の断崖絶壁にある岬。
道すらもない藪の中。ヒグマがうろついているのです。
そこから約20年。
ノーベル賞作家の、一ノ瀬和紀が失踪。
北海道のとある岬にいることを知った担当編集者の相沢は、会いにいくことに。
契約記者の石垣と、ときに情報を共有しながら岬の謎を解こうと奔走するのですが、この記者が曲者で。このくらいでないと、やっていかれないのでしょうね。
岬には、戦時中からの閉ざされた歴史がありました。衝撃的な内容だけれど、いかにもありそうで(いや、あったのでしょう)、ぞわぞわ。
戦争が終わり、戦時中とは違う用途で稼働していた、岬にある建物。
意外なことに、神も教祖も存在しませんでした。
植物が生き物にもたらす作用や覚醒剤、新薬の開発のあれこれ、伝書鳩、アイヌの人々との歴史など、多岐にわたる内容でした。
巻末の参考文献のタイトルをざっと眺めただけでも、著者の苦労が垣間見えます。
篠田さんの作品だけに、圧巻でした。
この人の作品は、どれもすごい。
異次元に迷い込んだような、不思議な感覚になります。
最後に
年末は家族が家にいて(例によって、なにもしない)、思うように読書の時間がとれませんでした。
久々に、紅白歌合戦なんかもみたりして。
宮本さんが素敵でした。
かっこよかったなあ。
音楽って、元気をもらえますね。
この話は、岬にたどり着くまでの道のりが険しい(狭い所や暗い所を通る)という設定のため、ある晩、夢で同じような情景をみました。暗闇の中を縄梯子で降りたり、迷路のようなところを彷徨ったり。
普段は家にいて、刺激のない生活を送っている私は、ちょっと珍しい設定の本を読むと、もろに影響を受けて似たような夢をみるのです。話したこともない高校の同級生が出てきたのは何故だろう。