宮部みゆき「鳩笛草/燔祭/朽ちてゆくまで」について
宮部みゆき著「鳩笛草/燔祭/朽ちてゆくまで」は、2000年4月に光文社文庫から発売された小説。
全363ページ。
※カッパ・ノベルスとして、1995年9月に刊行。
文庫本の巻末解説は大森望氏。
3本の中編が収められています。
どの作品にも不思議な力を持つ人物が出てきます。どれも面白いミステリー。
それぞれのあらすじと感想をまとめます。
「鳩笛草/燔祭/朽ちてゆくまで」のあらすじと感想
朽ちてゆくまで
両親を事故で亡くし、祖母と暮らしてきた智子。その祖母も亡くし、自宅を売却せねばならなくなった。
家の片付けをするうち、大量のビデオテープを見つけた。再生してみると、幼い頃の自分の姿が映っていたー。
智子は、8歳で両親を亡くすまでの記憶を失っています。
21歳になる彼女。幼い頃の記憶が全くないというのは、どんな気持ちなのでしょう。両親は他界してしまっているわけですから、彼らの口から思い出を語られることもありません。
ビデオテープに残された映像によって、記憶の扉を開いてしまうことになるのですが、こんな内容を見てしまったら、戸惑うのも無理はありません。幼い頃の智子には、他の人にはない能力があったのですから。
家族の死は、ショックです。
彼女の気持ちを知ることは出来ませんが、関わることになった人々の優しさが沁みる物語でした。
燔祭
一樹には、仲の良い歳の離れた妹がいた。
しかし彼女が高校二年生のときに殺害されて、浮上した犯人は未成年だった。
その頃、同じ会社の女性から「お役に立てるのでは」と声を掛けられー。
この章に登場する特殊能力の持ち主・淳子は、自らの「念」で火を放つことが出来るのです。
この力は、どんな場合でも使ってほしくない、と思うのは私だけ?
危なすぎるし、物事が良い方向に行く気がしないのです。
とはいえ、淳子とて望んで手に入れた力ではありません。
理解を得られないまま、生きてゆくことの辛さを感じました。
淋しい話だったけれど、読後感はそう悪くなかったです。
鳩笛草
刑事の貴子には、透視する能力がある。
しかし最近、その能力に衰えを感じるようになってきていた。
このまま刑事としてやっていくことが出来るのかー。
本編では、傷害、痴漢、横領、窃盗、誘拐などの事件が発生します。
貴子も捜査に加わりますが、どうも本調子ではないのです。
周囲の人間も何事かと心配しますし、本人のダメージも相当なはず。
人や物に触れると、その背景(感情等)を読み取ることができるというのは、確かに職業柄、役立ちそうではあるけれども。受け止めきれないことや、知らなくてもいいことも、あるでしょうね。
男性ばかりの職場。
刑事ゆえか、あたりは強いけれど、実は誰もが気にかけてくれている、というのが読み取れて温かな気持ちになった表題作でした。
まとめ
むかーしむかし、一度読んだきりの本です。
オチはすっかり忘れていました。
まだ手元に残っているということは、当時の私はいつか再読しようと思ったのでしょう。
そりゃそうでしょうよ、宮部さんのミステリーは間違いないですもの。
超能力が出てきますから、SFの要素もあるとは思うのですが、「SF小説はちょっとなぁ」という方でも楽しめます。(私、SF作品が苦手です。)
この本に出てくる特殊能力を持つ3人の女性、皆、特別な感じがしないんです。
実在していそうなくらい、普通の人として描かれていて。