桐野夏生「バラカ」の登場人物
桐野夏生著「バラカ」は、2016年2月に集英社から発売された長編小説。
全650ページ。
初出は「小説すばる」2011年8月号~2015年5月号。
ゴールデンウィーク、いかがお過ごしですか。
毎年この時期に衣替えをしているのですが、今年はなんだか肌寒いような気がします。
さて今日は、連休の前半にどっぷりハマって読み終えた一冊、「バラカ」を紹介します。
まずは、主な登場人物の紹介から。
バラカ 主人公。
佐藤隆司パウロ バラカの父親。日系ブラジル人。
ロザ パウロの妻。
豊田吾朗 警戒区域の犬猫保護ボランティア。
村木 警戒区域の犬猫保護ボランティア。
ルリ子 村木の娘。
若杉健太 バラカの支援者。
若杉康太 バラカの支援者。健太の双子の弟。
村上サクラ 健太の知り合い。
木下沙羅 出版社の編集者。
木下聖子 沙羅の母親。
田島優子 沙羅の親友。テレビ局のディレクター。
川島雄祐 優子の元彼。
ヨシザキ 牧師。
桐野夏生「バラカ」のあらすじ
日系ブラジル人のパウロは日本の工場で働いていたが、妻が「精霊の声」に入信したことで夫婦関係が悪化。妻と団体との関係を断ち切らせるため、家族でのドバイ行きを決意。
しかし妻はドバイで、娘と共に姿を消した。妻子の行方が分からなくなり、途方に暮れるパウロ。
一方、出版社で働く40代の独身女性は子供が欲しいと望んでいた。親友から、海外の市場で子供のあっせんをしてくれるところがあると聞き、興味を持つ。
登場人物らは東北地方を震源とする大震災と原発事故により、人生が大きく変わることになる。
彼らを待ち受ける、思いもよらない展開とはー。
バラカという一人の女性の、波乱に満ちた半生を描いた一冊。
桐野夏生「バラカ」の感想
長い長い物語でした。
バラカを軸に、本人、そして彼女と関わりを持った人物らの視点から描かれています。
第一部は「大震災前」、第二部は「大震災」、そして第三部では「大震災8年後」という展開。
バラカの生い立ちは決して恵まれているとは言えないのですが、人との出会いや本人の決断次第で、こうも逞しく生きられるんだと気付かされました。
親切な人だけでなく、宣伝に利用しようとする者、支配しようとする者など、目的を持った者たちがバラカに近付いてきます。
敵か味方か、ときに、読み手までも翻弄されます。
バラカの実の父と母は、「日系ブラジル人」という共通項があるとはいえ、片方が「熱心な信者」となってしまうと、夫婦関係を続けていくのは難しいのかなという気がします。
信者となった妻のロザ。教会へ通うきっかけとなったのは、日本での生き辛さだったのかもしれません。
「失敗のサイクル」というワードは、他人事とは思えませんでした。


高給取りの沙羅は、ドバイの闇の市場で子供を手に入れようと、親友の優子と共に現地へ向かいます。お金で解決できることが多い世の中ではありますが、人の売買は如何なものでしょうか。沙羅の考えていることは、理解できません。
取材に使えるかも、という魂胆で情報を与えてしまう優子も優子です。本当に親友か?
そしてその元彼、川島の気色悪さ。彼が出てくる場面は、ずっとぞわぞわしていたような気がします。
やがて奇妙な三角関係へと発展していくのですが、この3人は皆、異なる種類の野心家という印象です。何よりも優先すべきは、己の欲。
震災から8年後が描かれている後半は、衝撃。
原発事故によって、放射能に汚染された東日本が描かれているのです。あくまでもフィクションなのですが、なくはない事態という感じがするからおそろしい。
作家の想像力って、とてつもないですね。
最後に
たくさんの「別れ」が出てきました。
探し続けた人に思わぬ場所で再会できた場合もあれば、帰らぬ人となったという知らせを受ける場合も。
あの大震災、そして原発事故がなければ、きっと皆違った人生を送っていたでしょう。
去年紹介した桐野さんの作品「日没」に出てきたような奴が何人も出てきて、嫌な気分になることしばしば・笑。嘘つきばっかりなんですもん。
ここまで平然と、でまかせを言ってのける奴らの神経ったら。
でも、「日没」とは読後感が全然違いました。希望が持てます。面白かったです。