桜木紫乃「青い絵本」について
朝晩は多少冷えるものの、ここ神奈川はすっかり春の陽気。
木蓮がキレイに咲いている◎なんて浮かれていたら、あっという間に桜が咲いている!
今年初めて、半袖で過ごしてみました。
まだ3月なのに…。
さて、今日紹介する本は桜木紫乃さんの著作です。
桜木さんは、私がよく聞いている大竹さんの「ゴールデンラジオ」のゲストに何度か出ていらっしゃる方。
北海道在住ということで、作中の舞台も北海道が多い印象。
桜木紫乃著「青い絵本」は、2024年11月に実業之日本社から発売された短編集。
全154ページ。
初出は「Web ジェイ・ノベル」、「THE FORWARD」等。
単行本化にあたり、加筆修正を行ったとのこと。
本作には、5本の短編が収録されています。
故人、あるいは死期が近づいている人の側にいる者、の視点で描かれる話が多かったです。人との別れ、について思うところがありました。
自らが選んだ別れ、突然の別れ、想定していなかった別れ。
人生で、誰にでも起こる出来事。
収録されている中で、印象に残った2本を紹介します。
桜木紫乃「青い絵本」のあらすじと感想
卒婚旅行
タイトルが「卒婚旅行」ですから、これはもうそのままの話です。
夫の和幸が、市役所を定年退職。
妻の晴美は夫と別れる計画を立て、少しずつ準備を進めていた折。
夫から「豪華列車ななつ星」の抽選に当たったから、と誘われて行くことになりー。
これは、初めて読んだときは晴美側の視点に立ち、痛快!となったのですが、改めて読み返してみると、和幸が少し気の毒にも思えて。
定年まで勤めあげ、ななつ星の抽選に当選して無邪気に喜んでいた男が、突然妻から「卒婚」を言い渡されるのです。しかも、ななつ星の費用は小遣いをコツコツと貯めたへそくりだといいます。
和幸は、自分の行いが独りよがりだった、ということに気が付いたのでしょうか。
パートナーが晴美のような行動をとる前に、気が付けるといいのですが…。
ただ、どちらかが関係性を変えたい、というならばそうした方がいいのでしょう。
青い絵本
表題作の「青い絵本」は、漫画家のアシスタントをしている45歳の美弥子という女性が主人公。
絵本作家・高城好子から、一通のメールが届く。彼女は3年間、美弥子の「3番目の母」だった人。父の元を去ってからも美弥子とのやりとりは続き、30年以上の付き合いになる。東京で暮らす好子から「北海道の温泉に行きたい」というお誘いのメールを送ってきたのだったー。
というあらすじです。
父親の元再婚相手との、ほどよい距離感や踏み込み過ぎない関係性が、心地よく読み手に伝わってくる一作だと思いました。
今は疎遠になってしまった、美弥子と父。
しかし彼を介して知り合った2人が、血の繋がりをこえるほど強い信頼をお互いに抱いているのを感じ取ることが出来ました。好子は、残り時間があとわずかであることが明らかな姿で美弥子に会いに来て、最後の仕事を仕上げようというのです。
美弥子の父抜きで、ここまで長い付き合いになるとは、出会った当初お互いに思ってもみなかったのでは?
縁とは不思議なものです。心を許す「何か」があったのかもしれません。
この本の装丁の鮮やかなブルーは、表題作を読んだ後にみてみると、初見とは違った印象を抱きます。作中では、様々な「青」が描かれています。
何気なく口にしている「青」って、人によって思う色がそれぞれありますよね、きっと。
まとめ
さらさらと、読み心地の良い物語ばかりの5作品だったように思います。
儚くて切ない、でもドロドロしていなくて、心がざわつくことなく読み終わりました。
読書によって、心身をかき乱されたくない時にもお勧めの一冊です。
死をテーマに書かれた物語なのにもかかわらず、喪失感はさほど感じませんでした。
読了後、不思議な感覚が漂いました。