月村了衛「おぼろ迷宮」の登場人物
月村了衛著「おぼろ迷宮」は、2025年3月に角川書店から発売された本。
2023年1月から2024年6月までの新聞連載に、加筆修正して書籍化されたとのこと。全398ページ。全4話が収められています。
表紙が若い女性なので、もしかして学園ものかな?と、読むのを後回しにしていたのです(実は少し苦手…)。しかし、これは勝手な思い込み。
めっちゃくちゃ面白かった!さっさと読めば良かった!
ミステリーなのに心がざわつくことがない、という不思議な読後感。
各話に共通して登場する、主な人物を紹介します。
三輪夏芽 主人公。C大学社会学部の2年生。
鳴滝 朧荘の住人。
藤倉紬 C大学の学生。夏芽の友人。
雛本泰次 甘吟堂の店主。
榊静香 C大学の准教授。32歳。
剛田鋼太郎 警察官。31歳。
月村了衛「おぼろ迷宮」のあらすじと感想
主人公の夏芽が暮らすアパートは、朧荘という名の老朽物件。
隣に暮らす男性は、鳴滝と名乗る老人。正体不明の独居老人かと思いきや、夏芽とは意外な関係性を築くまでに。
第一話・最初の事件
夏芽がいつものようにアルバイト先の甘味処「甘吟堂」に行くと、見知らぬ男が「店主」だと名乗り、押し出されてしまう。わけがわからない夏芽。
混乱しつつ翌日も行ってみると、元の店主が何くわぬ顔で「昨日は一人で大変だった」と言う。何がおきているのかさっぱり分からない夏芽は、友人に相談するのだが―。といったあらすじ。
夏芽と鳴滝老人が関わることになったきっかけが描かれている、第一話。朧荘の住人であることに加え、両者ともに甘党であるという共通点も見つかります。
さて、夏芽のバイト先での不可解な出来事。
この謎を、鳴滝老人が調べるという話です。
彼は話を聞いたそばから、大方の予想はついていたようです。何らかのツテがあって、当事者同士の問題を解決するところまで導くのです。
この章では鳴滝の正体は明かされず。
抜群の推理力を持つ者、としての情報のみ。さてこの甘党の男性は、何者?
第二話・次なる事件
夏芽は、大学の試験を受け損ねたためにレポートを作成することに。内容は、大学近辺の人々の話を聞き「人の心に寄り添う」とはどういう意味か、を学ぶといったこと。
さっそく近隣の高齢者に話を聞くことに。そんな中、これは振り込め詐欺なのではないか、と思われる案件を耳にする―。
この章では、夏芽の通う大学の准教授・榊先生が登場。指導教官としての厳しさもありながら、意外な一面も垣間見ることが出来ます。
このレポートは労力を要するであろうことが察せられますが、夏芽が当事者やその周囲に接触したことにより、ことの全容が明らかになっていくのです。
これも鳴滝が力を貸してくれます。そして、彼の助っ人・剛田の登場。この大男、一体職業は何なの?この時点では謎のまま。
第三話・最大の事件
55歳・女性の孤独死の現場検証を行った剛田。事件性はないとの見立てだが、押入れの中にあった古い冊子を見つけた彼は、息を呑んだ。警察署の出納帳と、捜査資料だったのだ。
内緒で持ち帰り、鳴滝に打ち明ける。パート従業員の女性宅に、なぜこれらのものがあったのか―。
夏芽の他に、剛田の視点からも描かれているのが新鮮でした。彼なりの矜持があっての行動だとは思うのですが、どこか滑稽なのが面白い。
今回、夏芽は加わらないのかと思いきや、しっかり参加する流れに。
中編、といった長さの第三話は「警察組織の存亡」が懸かった、と作中で表現されている通りの案件です。ようやく鳴滝の正体が明らかになり、郷田とその周辺の人々との関係性もみえてきます。
やっぱり只者ではなかった!
榊先生の素敵な部分も存分に楽しめて、読み応え抜群の章でした。
ラストの第四話はほっこりできる話で、こちらも良かった。
まとめ
甘味を食べ歩くシーン、外食のシーン、各所で美味しそうな料理の数々が出てきまして、それはそれはリアルな描写です。
そして、この小説の中で描かれている世界がとても平和◎
事件は起こるのですが、凶悪なものではないのです。解決策もあり。
くすりと笑えるシーンもあって、あたたかい気持ちになりました。
こころ穏やかに読める謎解きの物語を、という方にもおすすめの一冊です。