桜木紫乃「蛇行する月」について
今年も残すところ、あと2ヶ月。
つい先日、近所の書店で来年の手帳を買ったところです。
年賀状は、もうそろそろ辞めようかと考えていますが、さみしいような気もしていて迷い中。
柿が旬をむかえています。安く手に入るようになって、とても嬉しい今日この頃です。
さて、今日紹介する本は桜木紫乃さんの作品。
桜木紫乃著「蛇行する月」は、2016年6月に双葉文庫から発売された小説。全196ページ。
(単行本の刊行は2013年10月。)
時代ごとに6人の女性が語り手となって紡がれる、連作の短篇集です。
前半の4人の部分のあらすじと感想をまとめます。
桜木紫乃「蛇行する月」のあらすじと感想
1984 清美
割烹ホテルの営業社員・戸田清美は、宴会のたびに酌をさせられる仕事に辟易していた。酔客相手の接客に不備があれば、上司から怒鳴られる日々。金銭的な余裕もなく、同居する家族との関係も良くない。
ある日、彼女のもとにかつての高校の同級生・順子から電話がかかってきた。「東京に逃げることにした」というー。
清美の職場環境は、今ならばカスタマーハラスメントやパワハラ、セクハラで問題になりそうなものですが、1984年の頃となると、耐えるしかなかったのでしょう。
彼女には交際している男性がいるのですが、これがまた嫌な奴で…!
当時の女性の営業職はここまで耐えて働いていたのかあ、と苛立ちがおさまらない挙げ句、彼氏に至っても女性蔑視のろくでもない奴。
しかし、ラストがナイス◎
1990 桃子
カーフェリーの乗組員として働く桃子は、職場の妻子持ちの男性と交際していた。
高校の同級生だった順子が、駆け落ちしたという噂をきいた。そんな彼女から届いた年賀状に「すごくしあわせ」と記してあったのが気になり、東京で会うことにした桃子だったがー。
順子は、籍も入れずに暮らしているにもかかわらず「しあわせ」だという。桃子自身も妻子ある男性と付き合っているが、一緒になる事は叶わないのだと悟ったため、よその「しあわせ」を自分の目で確かめたかったのでしょうか。
「東京で暮らすかつての同級生」に会うのだと意気込んでいた桃子でしたが、想像していたような都会の暮らし、をしていなかった順子。
それでもまっすぐに、今の暮らしがいい、と口にする順子を目の当たりにし、複雑な心境になる桃子。高校時代の順子の恋愛観からの延長、とすると納得できる部分もありました。
1993 弥生
弥生は1年前に父を看取ってから「菓子や・幸福堂」の暖簾を守っている。
彼女の夫は腕の良い職人として働いていたが、店頭の販売員と駆け落ちしてしまった。捜すことをせずに来たが、二人の居場所を知らせる便りが届いた。失踪宣告の手続きを取ろうとしていた矢先の事だった。弥生は東京に会いに行く決断をしたー。
順子と駆け落ちした男性の、妻側から描かれた章です。
菓子屋に生まれ、親の言う通りの人生を歩むはずだった弥生。彼女なりの葛藤もあっただろうに、穏やかに生きる彼女。
彼女の勇気と、かつての夫が出した意外な決定に驚いた。
2000 美菜恵
35歳の美菜恵は、結婚披露宴を目前に控えていた。結婚相手は、高校時代に淡い恋を抱いていた先生。美菜恵が教員となり、同じ高校の勤務で再会。結婚することになったのだった。
高校時代の仲間と居酒屋で集まり、結婚や相手に対する愚痴を言い出す美菜恵だが、「すべてノロケ」だと返されてしまう。
いわゆる、マリッジブルーというやつですね。
しかし美菜恵のような出会い(というか再会?)が、結婚のきっかけになることもあるんですね。20年越しですよ。
その間、美菜恵は数々の恋愛もしてきたようですが、結婚相手に選んだのは落ち着いていて少々物足りなさを感じる男性。でもこの先生、優しいんですよ。
静かに見守る感じとか、出しゃばらない感じとか、いいなあと思います。
美菜恵も、順子の高校時代の同級生です。
よって、作中での美菜恵らの会話にも順子が登場します。彼女たちが語る順子の描写が、なるほど今の順子の生活も納得できるなと思ったり。
残る2篇も、順子のまわりの人々らの物語です。
まとめ
1984年から2009年までの、ある一人の女性界隈の物語。
ゆるやかに時代が変化していく過程も興味深かったです。
薄めの文庫本なので、移動時間に読むのにぴったりでした。
