桜木紫乃「星々たち」について
時間が秒で過ぎていく…というくらい、はやく感じた11月。
暑い暑いとぐったりしていた夏が過ぎ去って、ここ関東の11月は晴れの日が多かったです。気が付けば、ラジオを聞きながら散歩ばかりしていたような。
2025年も、もう終わりが近づいて来ましたね。
今年から年賀状は廃止の方向で調整しているので、かなり気持ち的には楽な年末になりそうです。
さて、今日紹介する本も桜木紫乃さんの作品。
部屋の片隅に積んである「読みたい本」の中からのチョイス。
今年は、気付けば彼女の本ばかり読んでいます。
桜木紫乃著「星々たち」は、2016年10月に実業之日本社文庫から発売された小説。全279ページ。単行本の刊行は2014年6月。
9章から構成されている本作は、語り手をかえて話が進んでいきます。
3世代にわたる女性たちの物語で、咲子、その娘の千春、そして千春の娘のやや子。当人、もしくは彼女らと近しい関係の人物の視点から語られています。
桜木紫乃「星々たち」のあらすじと感想
第一章のひとりワルツは、咲子視点で語られる話。
咲子には離れて暮らす中学時代の娘・千春がおり、実母に預けて夜の世界で働いていた。娘の父親はいない。久しぶりに母親らしいことをしようと、娘を呼びよせて会うことに。そんなとき、咲子の勤務先に客として来ていた意中の男性と店外で会うことになったー。
咲子の、異性に対する危なっかしいふるまいに、ハラハラさせられました。情熱的、といいましょうか自分の気持ちに正直な性分、というか。娘を可愛がりたい気持ちはあるものの、現実的には難しそうな気配にざわっとします。
第二章は、高校生になった千春を隣人として見守る女性・育子の視点から描かれています。千春は未だに祖母とふたりで暮らしており、不憫に思う育子が何かと目をかけている状況。育子には、離れて暮らす医大生の息子がいる。息子が久々に帰ってくる、と浮き立つ育子だったがー。
育子から見た千春は、無口で愛想のない子。育子は身体が弱く「ひとりしか産めなかった」という葛藤がありました。しかし医学部に息子を通わせているという現実は、彼女の誇りなのでしょう。久々に帰ってきた息子の様子は思い描いたものとは異なり、戸惑う育子。そして事態は、思わぬ方向へと向かってしまうのです。
育子のざわめきは、こちらまでひりひりとした気持ちになりました。
第4章は、裁判所で窓口業務を行う41歳の男性が語り手。78歳の母・照子と同居している。照子は典型的なクレーマーで、スーパーや運送会社の対応をめぐりって頭を下げさせることもしばしば。
謝罪に来た担当者の女性が、後に別件で裁判所の窓口にやってくることになるー。
この謝罪に訪れた女性こそが、22歳になった千春です。そして千春は、母親(咲子)のことを裁判所の窓口に相談しに来たのです。語り手の男性は千春に好意を持つに至り、急展開。
ここで登場する2人の母親は、どちらも子どもの手を煩わせます。タイプは違えど、血の繋がりがあるというわけで逃げ出すわけにもいかぬ状況。
第五章では、千春の姑となる人物が語り手。息子夫婦の様子を客観的に捉えた様子が描かれています。ここでもやはり千春は表情の乏しい感情の希薄な女性、として登場します。千春はこのとき、やや子と名付けた娘を産みます。続く第六章は、30代の千春が文学講座に入会し活動する様子が、師の視点から語られています。
第七章は咲子の今際の物語。千春の身に、不幸な事故がふりかかります。
第八章での千春の様子に、息をのみました。
ラストの第九章で、24歳になったやや子の登場です。やや子の口から語られる、今までの人生。肉親との縁は薄い彼女でしたが、悲壮感がないのです。
そして、よき出会い。咲子、千春とは全く違う未来が待っていそうな、幸福感すら漂うラストでした。
まとめ
軸になるのは咲子、千春、やや子3人の女性たちの物語なのですが、語り手たちそれぞれの人物がなにかしらの問題を抱えて生きているのです。
皆、心の中にある黒い感情を持っていて、それをそっと盗み見しているような妙な面白さがありました。
軽々しく口には出せない、自分の中の葛藤…。どんな人も、少なからずあるものなのかもしれません。
