まつりパンライフ

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伊与原新「翠雨の人」のあらすじと感想

伊与原新「翠雨の人」の登場人物

今日紹介する翠雨の人は、ラジオ番組で中瀬さんが取りあげていた作品です。

中瀬さんというのは、あの新潮社の中瀬ゆかりさん。5時に夢中のコメンテーターとしてもおなじみの方です。彼女が週一で登場するニッポン放送の木曜日のラジオ番組・あなたとハッピーで紹介されていて、気になっていた一冊。

このコーナー内でおすすめしてくれる本はどれも面白いので、今回も期待大で読んでみました。

 

伊与原新著「翠雨の人」は、2025年7月に新潮社から発売された長編小説。

初出は「波」の2022年1月号〜2024年1月号。書籍化にあたり加筆修正をしたとのこと。全282ページ。主な登場人物の紹介です。

 

猿橋勝子 主人公。科学者。

猿橋邦治 勝子の父親。電気技師。

猿橋くの 勝子の母親。

猿橋英一 勝子の9つ上の兄。

 

倉本典子 物理学専攻のクラスメイト。

三宅泰雄 中央気象台の研究者。師。

奈良岡隆文 中央気象台の研究者。後輩。

 

伊与原新「翠雨の人」のあらすじ

大正9年、東京に生まれた猿橋勝子。

自立した女性を目標に、勉学に励む日々を送っていた。

数学と物理が得意だった勝子には、当初医師になるという夢があった。しかし、予期せぬ言葉をかけられたことや人との出会いの中、自然を対象にする分野の学問の道へ進むことを決意。

 

殺伐とした空気が漂う、戦時中の日本。

科学者として歩み、2007年に87歳で亡くなるまでの猿橋勝子の生涯を描いた物語。

 

伊与原新「翠雨の人」の感想

女子が大学に入学するのが許されなかった時代。

勝子のように、自立した人生を送ろうと考えた女性は圧倒的に少なかったことでしょう。それでも信念を曲げなかった彼女。そんな勝子にとって特別な存在だったのは、マリー・キュリー。放射能の研究で知られる、女性初のノーベル賞受賞者です。

 

学生時代に目標となる道筋が見つかり、方向性が決まったというのは、うらやましくも感じます。

戦争が激化するなかで学校へ通い、勉学に加えて奉仕活動に従事させられることもあった時代を過ごした勝子たち。国の情勢や緊迫した空気感も伝わってきました。

戦時中の葛藤、勝子が戦争に対して思うあれこれも、全くその通りだなあと感じました。それよりも強く感じたのは、戦後の人々の苦悩。勝子の友人は、広島で被爆するのです。

 

実習先の中央気象台で、師となる三宅と出会ったことは、その後の勝子の人生に大きな影響を与えたに違いありません。彼のもとで学べたことは、幸運だったと思います。そして、その気象台に就職。

それにしても、実験というのは根気のいる作業なのですね。条件を変えながら幾度も行い、結果を出していかなければならないー。

 

彼女のなかに時折よぎる、孤独や寂しさを感じ取りながら猿橋勝子という人物に思いを馳せました。

 

理系の知識がないと置いてきぼりをくらうかな、と心配になりました。が、専門知識が乏しい私でも、全編を通して興味深く読むことができた点は安心しました。しかも面白い!

 

最後に

猿橋さんは、理系の方にとって、有名な存在なのでしょうか。

この本を読まなければ知らずに過ごしていただろうと思いますが、大正の時代に生まれてここまでの偉業を成し遂げた女性がいたとは。

 

巻末の参考文献の多さに、驚愕。

史実に基づいたフィクションであることは承知の上ですが、勝子の芯の強さや粘り強さ、人柄の良さは事実に近いのだろうな、と勝手に胸を熱くしながら読みました。伊与原さんの作品、これから色々と読んでみたいと思います。