小池真理子「ウロボロスの環」の登場人物
沈丁花のいい香りを楽しみながら散歩する季節も過ぎ、ハクモクレンも散ってしまいました。寂しいなあ、なんて思っていたところ、もう桜が咲き始めました。
日の出の時間も随分はやくなりましたし、もう春だなあ。あっという間に夏が来てしまうんだろうなあ、と思うとちょっと嫌な気分にもなったりしますが、いかがお過ごしでしょうか。
今日紹介する本は、小池真理子さんの長編小説です。
すきま時間を利用して読むというよりは、時間を確保して登場人物たちの思いを考えながらじっくり読んだ一冊。
小池真理子著「ウロボロスの環」は、2025年10月に集英社から発売された小説。全570ページ。
初出は「小説すばる」2023年6月号〜2025年4月号。
主な登場人物の紹介です。
高階彩和 主人公。専業主婦。
高階俊輔 彩和の再婚相手。古美術店の店主。
高階羽菜子 彩和の娘。
野々宮歩 俊輔の秘書兼運転手。
影山治助 按摩鍼灸師。
岡田晴夫 医師。
岡田滝子 晴夫の妻。
長谷部武夫 俊輔の仕事仲間。
高階兵太郎 俊輔の父。
高階香子 俊輔の母。
杏奈 俊輔の元妻。
貴明 俊輔と杏奈の息子。
小池真理子「ウロボロスの環」のあらすじ
再婚者同士の俊輔と彩和は、1989年に結婚。ともに前の配偶者との間に、子供が1人ずついた。
彩和は前の夫を病気で亡くしていた。仕事もなく、頼れる身内もいなかった。
幼い娘に人並みの暮らしを、という思いから再婚へ至った。恋愛感情はほとんどなく、夫に従いながら暮らしていくことを決意した彩和。
俊輔は、父親が開業した古美術店を引き継いだ2代目。メディアへの登場も度々。
彩和との結婚は、落ち着いた家庭を築くためのものだった。
平穏な日々が続くはずだったがー。
小池真理子「ウロボロスの環」の感想
31歳の彩和が49歳の俊輔と結婚するところからはじまり、最後まで彩和の視点で描かれる物語です。1989年に結婚した彼女は、作中で歳を重ねていきます。
若かった彩和が、ラストでは自分の母親ほどの年齢になっていくさまを読むと、人の一生というのはあっという間なのだと感じました。
彩和は、終始冷静な人でした。娘のため、と割りきって再婚を決意したのもそうですし、その後の暮らしも夫の顔色を伺いながらの生活。従順すぎでは?と思わなくもないのですが、彩和は一貫してぶれませんでした。
彼女の中にある悲壮感のようなものや慎重さが、あらゆる箇所で出てくるのですが、分かる…と思ってしまいました。ただ、それを表面には出さないのが彼女の強さかもしれません。
俊輔の前妻である杏奈の存在が、明るさを放っていました。彩和との関係も良好、賑やかな性格ではあるものの、気遣いもできる。しかし、今の彩和の立場からは言えない事もあり、彩和は様々な問題をひとりで抱えねばならない場面に遭遇します。
夫の俊輔には気難しいところがあって、彩和が対応に手を焼くこともしばしば。
そして、飲酒と喫煙の量が度を超えているのです。誰が何を言っても、きく耳をもちません。
彼の嫉妬深い一面が、登場人物たちの関係性を悪い方向へと導いてしまったのかもしれません。後半で、思わぬが事実が明るみになったときには心底驚きました。
彩和は何度も「もしもあのとき」を考えるのです。確かに、この予期せぬ事実を知ってしまったならばそうなるでしょう。どんなに押しつぶされそうになっても、事実は事実なのですが。
慎重に過ごした彩和の日々は、幸せな時間もあったに違いないのですが、避けられない現実を前にすれば、どうすることもできないのかもしれません。
まとめ
やっぱり小池さんの描く男女の姿、というか言い表せないような細かな描写や感情の表現って、素敵だなあと思いました。
最近、あまり感じることがなくなってしまった「じれったい気持ち」を久々に体感したような気がします。切ないけれど、どっぷりはまった一冊でした。
