貫井徳郎「罪と祈り」の登場人物
貫井徳郎著「罪と祈り」は2019年9月に実業之日本社から発売された、長編のミステリー作品。
初出は「Webジェイ・ノベル」の配信で、 2017年12月~2019年2月までの連載に加筆・修正を行い発売。
全470ページ。
普段よりも読書にかける時間に余裕があり、読みごたえのあるミステリー作品を読みたい、という方におすすめの一冊です。
ミステリー作品なので犯人が存在するわけなのですが、それは明かさぬまま(ネタバレなし)、あらすじと感想をまとめます。
まずは、主な登場人物の紹介です。
濱中亮輔 会社が倒産し、現在無職の30代。
濱中辰司 亮輔の父。元警察官。遺体で発見。
芦原賢剛 亮輔の幼馴染。警察官。
芦原智士 賢剛の父親。1989年に自殺。
岸野 捜査一課の刑事。賢剛と共に辰司の事件を捜査。
小室翔 智士と同じ職場の無口な男。
生島彩織 辰司の幼なじみ。幼稚園の先生。
生島道之助 彩織の祖父。
さくら 喫茶店「チェリーブロッサム」のママ。
貫井徳郎「罪と祈り」のあらすじ
元警察官・濱中辰司の遺体が隅田川で発見された。
辰司の頭には打撲痕があり、何者かに殺害された方向で捜査が進む。
辰司はかつて交番勤務で、皆は正義の人だったというが、息子である亮輔はずっと「隠し事があるのではないか」と感じていた。
一方、賢剛の父・智士は28年前に自ら命を絶っていた。
辰司と智士は、親友であったという。
亮輔は、智士の自殺が父の死と関わっているのではないかと疑い、自ら調査を進めるーといったあらすじです。
貫井徳郎「罪と祈り」の感想
現在と過去(28年前)が交互に展開されていく流れです。
現在のパートは亮輔と賢剛が、過去のパートはその父親たちである辰司と智士が語り手になってストーリーが進みます。
例外なく語り手が交互に登場するので、「今は誰のパートだっけ?」と混乱することもなく読み進められました。
ただ、戸惑いが多かったです。
昭和から平成へと時代が変わるときに発生した、未解決の誘拐事件。
その犯人はその時代を憎んだ愚かな者たち、と言ってしまえばそれまでなのですが、その背景には「情」があったのかもしれません。
ただ、いくら「情」といっても身勝手すぎるものですし、誘拐は決して許されることではありません。
バブル期の地上げが引き金となった、切ない物語でした。
ついに父親の死の真相を突き止めた亮輔。
辰司の頭部を殴った犯人は、意外な人物でした。
そしてもちろん動機も…。
濃い人間関係が築かれている下町とはいえ、いくらなんでも…。
ネタバレはなしの方向なので人物については記しませんが、動機について少し触れます。
辰司を殴った犯人の動機は事実とは違う解釈(間違った思い込み)だったという、何とも後味の悪いものでした。
基本的にハッピーエンドを好む私ですが、小説としては非常に面白く仕上がっているという感想を持ちました。
実際、人間同士の思いやりが犯罪を生んでしまうこともあるのかもしれませんね。
登場人物の個性的なキャラクターもさすが貫井さん、という感じです。
最後に
何度か訪れたことのある浅草界隈が舞台となっており、これはあの辺りかな?と想像しながら読めたのが良かったです。
本の表紙に使われている写真のあたりですね。
道具街で有名な、あの「かっぱ橋」も少しだけ登場します。
自由に出歩けるようになったら、道具街にも久々に行ってみたいなあ。
貫井徳郎さんの作品は全て読んでいるのですが、ハズレがない!と個人的には思っています。
どれも面白い。
少しずつ謎が解けていく展開にやきもきしながらも、ページをめくる手をとめられません。
初期の作品も素晴らしいので、興味を持たれた方はぜひ読んでみて下さい。