角田光代「方舟を燃やす」の登場人物
角田光代著「方舟を燃やす」は、2024年2月に新潮社から発売された小説。
全425ページ。
初出は「週刊新潮」2022年4月14日号~2023年4月27日号。刊行にあたって加筆修正を行ったとのこと。
木曜日に聴いているラジオ番組内で、中瀬ゆかりさんがおすすめの一冊として紹介していた本です。
何度も書いているのですが、中瀬さんのおすすめ本はどれも面白くて、このコーナーを通して好きになった作家さんもたくさんいます。
角田光代さんの作品はおそらく全て読んでいるので、それはそれは新刊を楽しみに待っていました。
この本も最高に良かったので、ぜひぜひ読んでみてほしいです。
まずは、主な登場人物の紹介からいきます。
柳原飛馬 主人公① 1967年生まれの公務員。
柳原忠士 飛馬の3歳年上の兄。
狩野美保 飛馬の小学校時代の同級生。
平野政恒 飛馬の小学校時代の同級生。
山本大樹 子ども食堂の代表。
原園花 子ども食堂にやってくる女の子。
望月不三子 主人公② 専業主婦。
望月真之輔 不三子の夫。電機メーカー勤務。
望月湖都 望月家の長女。
望月亮 望月家の長男。
谷部仁美 不三子の妹。
勝沼沙苗 不三子が通う料理教室の先生。
角田光代「方舟を燃やす」のあらすじ
柳原飛馬は鳥取県に生まれ、高校卒業までを地元で過ごす。
大学進学を機に上京し、卒業後は都の職員となる。
他区で働く職員と結婚するが、次第に考え方に違いが生じ、別れることになった。
やがて、ボランティア活動に夢中になりー。
もうひとりの主人公・望月不三子は高2で父を亡くしたため、進学をあきらめて製菓会社に就職。
見合いで知り合った3歳年上の男性と結婚し、家庭に入る。
妊娠中に通い始めた料理教室で菜食主義に目覚め、2人の子供の育児に奔走する。
角田光代「方舟を燃やす」の感想
この本は、飛馬のパートと不三子のパートに分かれて進行していきます。
一人目の主人公は、1967年うまれの柳原飛馬。
鳥取での幼少期から物語が始まっていて、「ノストラダムスの大予言」や「口さけ女」、「こっくりさん」など当時世間を賑わせていた話題が描かれています。
懐かしいですよね。1999年に世界が滅亡する、というあの予言です。
小学生たちにとってみれば、興味津々だったのでしょう。
そして、飛馬が小6のときに母親が亡くなります。
この時のことを、彼は後に何度も思い返すことになるのです。
東京の大学を卒業した飛馬は、都の職員として働き始めます。結婚をしますが、仕事以外の時間の使い方にずれが出てきて別の道を進むことに。
一方の望月不三子の物語は、都内で暮らす高校時代からスタート。
1975年に結婚し、2人の子供を育てます。
不三子が子育てをしていた時代の、なんと豊かなことか!
地域差もあるでしょうし嘆いても仕方のないことだけれど、やはり自分が過ごした頃と比較してしまいます。
料理教室の先生との出会いは、その後の不三子の生き方に大きく影響することになります。玄米菜食をベースにした料理が、次々に登場します。
自分には不三子のような料理はとても無理ですが、読んでいる分には楽しかったです。
ただ、彼女のかたくなとも言える行動は理解されにくいものでした。
使命感、といってもいいような原動力。
思いが相手に伝わらなくても、出来る限りのことをする人、という感じがします。何かせずにはいられない性分なのかもしれません。
不三子は自らの母親を「陰気な母親」と捉えていたようですが、その母親が自らの過去を語る一幕があります。ここで、彼女の存在感がぐっと強く出てきました。
不三子らの母親になる前の凄まじい体験によって、人格が変わってしまったと思われます。印象深いシーンでした。
ふたりの主人公は、子ども食堂のボランティアで出会います。
やがてコロナ禍に陥り、メンバーたちのワクチンに対する捉え方の差異が明らかになってきます。
人は何を信じて進み、行動に移すのか。
そんなことを考えさせられた本でした。
まとめ
1967年から2022年までが描かれている一作。
不三子も飛馬も、それぞれに若かりし頃があり、時を経て、人生を歩んでゆく過程がじんわりと沁みてくる物語でした。
災害、戦争、デマ、カルト宗教などがトピックとしてあがってくる度に、自分も当時のことを思い返したりするのでした。