角田光代「銀の夜」の登場人物
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
2021年、最初に紹介する本は角田光代さんの新刊です。
大好きな作家の一人ですが、小説を読むのは久しぶり。
最近もエッセイの出版はありましたが、小説の新刊は久々でとても嬉しい。
書店で彼女の新作が並ぶと、わくわくする気持ちを抑えきれません。
角田光代著「銀の夜」は、2020年11月に光文社から発売された小説。
初出は「VERY」。掲載は2005年7月号~2007年6月号。
※「銀の夜の船」改題。
全300ページ。
主な登場人物の紹介です。
井出ちづる 主婦。イラストレーター。
井出寿士 ちづるの夫。翻訳の事務所に勤務。
岡野麻友美 主婦。ちづるの同級生。
岡野賢太郎 麻友美の夫。
岡野ルナ 麻友美の娘。5歳。
草部伊都子 ちづる・麻友美の同級生。独身。
草部芙巳子 伊都子の母。翻訳家。
角田光代「銀の夜」のあらすじ
30代半ばの女性たち3人(ちづる、麻友美、伊都子)を軸に描かれた物語。
彼女たちは中学・高校の同級生。
ガールズバンドでデビューし、活動していたという過去がある。
ちづるは、時々イラストの仕事をしながら夫と二人で暮らす主婦だが、夫の寿士には恋人がいる。
麻友美は経済力がある相手と結婚し、裕福な暮らしをしているが、娘のルナに自分が成しえなかった事を託そうとしていた。
名の知れた翻訳家の母を持つ伊都子は、自分もそうありたいと行動に移すーというあらすじです。
角田光代「銀の夜」の感想
最初の語り手であるちづるが主人公なのかと思いましたが、その後、麻友美と伊都子の視点でも物語が進行していきます。
角田さんの描く主人公たちは、一見すると平凡かと思いきや、どこか浮世離れしているところがあるように思います。
ときに、思い切った行動を取ってみたり。
不思議なのですが、読み進めていくとどういうわけか、彼女たちの内側にのめり込むような感覚になるんです。
境遇や背景も違うのに、なぜか腑に落ちるというか。
うまく表現できないのですが、誰の心の中にもきっとあるであろう感覚が巧みに表現されているからではないかしらと思います。
夫の浮気を知りながら、平然としていられるちづる。
自分の気持ちに戸惑いながらも、彼女なりに前に進んでいきます。
麻友美が5歳の娘に対して抱く感情は、理解しがたい部分もあるのですが、過去と向き合うってこういう事なのかな、とも思ったり。
(麻友美のようなタイプは、ちょっと苦手ですが。)
自由にみえる伊都子でしたが、実はそうではなかったんですね。
3人の中で、私はこの伊都子のキャラクターが好きでした。
30代半ば、葛藤の中でもがきながら生きる様がリアルで、それぞれに出した決断が逞しい。
後半の海の表現が、美しかったなあ。
最後に
読んでいて、おや?と気になった点がありました。
それは「携帯のボタンを押す」だとか、「ビデオテープを巻き戻す」だとかの表現です。
現代ではあまり使わないけどなと思っていたら、「あとがき」でその謎が解けました。
2004年から2005年を舞台に書かれた作品だそう。
確かにその頃は「ボタンを押す」タイプのフリップ式の携帯電話が主流だっただろうし、ビデオテープもまだ使われていたかもしれないです。
あとがきが掲載されている本って、得した気分になるのは私だけでしょうか?
最後の最後に、作品の背景や、作者の思いなどが詰まった文章を目にできるって最高だなと思います。