中島京子「ムーンライト・イン」の登場人物
中島京子著「ムーンライト・イン」は、2021年3月に角川書店から発売された小説。
初出は「小説・野生時代」の2019年12月号〜2020年11月号。
全326ページ。
中島京子さんの新刊です。
寝る前の読書タイムにぴったりの本でした。
心穏やかに、眠りにつけました。
主な登場人物は、以下の通り。
栗田拓海 35歳の青年。
中林虹之助 高原の家で暮らす男性。
新堂かおる 虹之助の知人。車椅子を使用。
津田塔子 かおるの知人。元介護職員。
マリー・ジョイ 塔子の元仕事仲間。フィリピン人。
では、あらすじと感想です。
中島京子「ムーンライト・イン」のあらすじ
自転車で放浪中の拓海は悪天候に見舞われ、宿泊できるところを探していた。
ペンションだと思って訪ねたところは、虹之助という男性と、3人の女性たちが暮らす家だった。
虹之助は拓海を招きいれ、屋根の修理を依頼する。
しかし、屋根から落下して怪我を負ってしまう拓海。
怪我が治るまで、その家で療養することになった。
中島京子「ムーンライト・イン」の感想
拓海が大雨で身動きが取れなくなり、途方に暮れるところからスタート。
彼が物語の主人公?と思いきや、すぐに招き入れる側の視点に移ります。
拓海、虹之助、かおる、塔子、マリー・ジョイ。
年代も性別もバラバラの登場人物たちだけれど、皆に複雑な過去があり、今の生活に何かしらの影響を及ぼしています。
それぞれが語り手となり、胸のうちやわだかまりとなっていることを語ります。
主人公は、彼ら全員。
舞台となるのは、高原に建つ虹之助の家「ムーンライト・イン」です。
かつてはペンションだったという家で、事情を抱えた人々が“ハウスシェア”して暮らしています。
家の所有者である虹之助にももちろん、今の暮らしに至るまでにはあれこれあったのです。
第三章では、塔子の過去が明らかに。
彼女が悪いわけではないけれど、逃げてきたのはまずかった!
普通の精神状態ではいられない状況だと思います。
でも、どう考えても相手の方が悪いよなあ。
介護職員の苦労が垣間見えました。
気難しそうな印象のかおるさんは、塔子のしでかした事を知る唯一の人物です。
それにしても、かおるが車椅子の生活になってしまった経緯が悲しすぎます。
夫を亡くした後、息子との関係に嫌気が差し、かつての知り合いである虹之助の家に逃げてきたのでした。塔子と共に。
車椅子の高齢女性が駆け込める「ムーンライト・イン」、素晴らしい◎
塔子のかつての同僚が、マリー・ジョイ。
母親はフィリピン人で、父親が日本人です。
20代・最年少の彼女は、明るくてチャーミング。
ムードメーカー的な立ち位置ではありますが、この高原の土地へ来たのには、ある目的があったのです。
度々、一人でどこかへ出かけていくマリー・ジョイ。
この謎めいた行動をとる訳とは。
フィリピンで食されているという料理を紹介するシーンがあるのですが、これがなかなか…!文化の違いとはいえ、日本人の感覚とは違うなあ。
居候のようになってしまっていた拓海でしたが、怪我も良くなります。
彼がこの家で過ごし、出した結論はいかにー。
まとめ
高原の空気感が伝わってくるようでした。
そして、心地よい余韻が残る終わり方。
ムーンライト・インのような場所が欲しくなる昨今です。
この本は、ミステリーの本と並行して読んでいました。
昼間→ミステリー、夜→本作といった具合に。
夜にミステリーを読むと、悪夢を見るもので…。
この小説、読み方によっては、恋愛小説ともとれます。
会話もユーモラスで、面白かったです。