角田光代「タラント」の登場人物
角田光代著「タラント」は、2022年2月に中央公論新社から発売された長篇小説。
2020年7月~2021年7月まで読売新聞朝刊に連載された作品に、加筆・修正をしたとのこと。
全443ページ。
角田さんの、ひっさびさの新刊。
あまりに面白過ぎて、食事しながらも読んでしまう、という事態に。(行儀悪いですね。)
そして、思わぬところで泣いている自分に戸惑う。出先でなくて、本当に良かった。
では、登場人物の紹介です。
山辺みのり 主人公。洋菓子屋勤務。
山辺寿士 みのりの夫。映画の配給会社勤務。
多田清美 みのりの祖父。戦争で片足を失う。
多田珠美 みのりの母。
多田啓輔 みのりの兄。
多田由利 啓輔の妻。
多田陸 みのりの甥。中学2年生。
宮原玲 学生時代のサークルの仲間。ジャーナリスト。
遠藤翔太 サークルの仲間。カメラマン。
甲斐睦美 サークルの後輩。通称・ムーミン。
真鍋市子 サークルの先輩。
澤和彦 サークルの元代表。
山下賢太郎 みのりの勤務先のオーナー。
角田光代「タラント」のあらすじ
主人公は、洋菓子屋で働くみのり。
大学進学を機に香川県から上京。学生時代はボランティアサークルに入り、途上国を訪れ現地を視察するなどの活動をしていた。
その頃、香川に住む祖父の清美がみのりの元を訪れることがあった。
それから20年。みのりは、学生時代からの活動を続けているわけでも、やりたい仕事をしているわけでもない。
そんな折、実家で、清美宛に女性からの手紙が届いているのを知るー。
角田光代「タラント」の感想
表紙や背表紙を見ると、パラスポーツについての内容なのだろうなと想像がつきます。
白状すると、実はスポーツにはあまり興味がなく、ごりごりのスポーツ小説だったらどうしよう、と身構えていました。
ですが、初めの方でみのりが「オリンピックに興味がない」と明かしていまして。この箇所を読んで、一緒だ!と。ただ、パラリンピックに対する見方は随分と変わりました。
現在のみのりの、夫との東京での暮らし、そして学生時代から今に至るまでが描かれています。
疎遠になってしまった学生時代の仲間とのことや、ボランティア活動、戦争、パラスポーツ、途上国の貧困、様々なテーマが盛り込まれていて、どれもこれも興味深い。
特に印象的だったのは、海外でのボランティア活動のシーン。知らぬ現状に、圧倒されました。なんだろう、この不思議な感情は。
私はけっして、みのりのいうところの「熱い人」ではないけれど、自分はなんと無知なのだろうとしばし考え込みました。
この本の中で、みのりの祖父・清美の存在がとても大きい。
勝手に、もう一人の主人公だと思っています。彼は、戦争で片足を失っています。そして、無口。当然ですが無口な人にも感情はあって、それを出すか出さぬかの違いなんですよね、多分。
そんな清美が、感情を出したり意見を言う場面も。
過去を誰にも語らずに生きてきた清美の発する言葉だけに、重みがあります。
みのりの後悔や喪失も、随分と助けられたのではないかな。
清美に届く手紙の相手は、涼花という陸上選手でした。
年代が違う二人の間に、どんな接点があるというか。
みのりと甥の陸は、意外な過去を知ります。
最終章で、私自身が救われたような気持ちになる部分がありました。
それは、みのりなりの解釈なのですが、それを引き出したのは夫の寿士。
なんとなく存在感の薄い人だなという印象だったけれど(って、失礼ですね)、みのりのよき理解者なのですね。
まとめ
2022年に出会った本の中で、最も衝撃が強かった作品かもしれない。
何度読み返しても、ぐっとくる。ささるなあ。響くなあ。
つらく悲しい現実も描かれていましたが、全然湿っぽくないのです。
それにしても私、こんなに涙もろかった?
手元に置いて、何度でも読み返したい。
本当に素晴らしい一冊でした。
ぜひ読んでみて下さい。