唯川恵「みちづれの猫」について
唯川恵さんの「みちづれの猫」は、2019年11月に集英社から発売された短編集。
タイトルから想像できる通り、猫にまつわる短編小説が7本収められています。
主人公は全て女性。
2020年、最初に読んだ本が今日紹介する「みちづれの猫」でした。
最近はあまり読まなくなってしまった恋愛小説ですが、唯川恵さんといえば恋愛小説ですよね。学生時代によく読んだものです。
この作品は、タイトル通り「猫」にまつわる短編が7つ収録されています。
初出は2015年から2019年の「yomyom」、「小説すばる」、「家庭画報」。
唯川恵「みちづれの猫」のあらすじと感想
7篇それぞれのあらすじと感想をまとめてみようと思います。
ミャアの通り道
主人公は、都内のイベント会社で働く30代の女性。
実家で飼っている雌猫・ミャアの最期が近いと連絡を受け、金沢へ向かった。
予期せず、姉と弟までもが駆け付けるという事態にー。
去年遊びに行った金沢が舞台だわ、と思ったら唯川さんの出身地でもあるのですね。
回想シーンも良かったけど、忍び寄る「両親の老い」がテーマなんじゃないかと感じました。
私も離れて暮らしているため、考えさせられる問題です。
避けて通れないですし、切なくなりました。
猫を飼ったことがないので分かりませんでが、ドアを少し開けておくというのは猫を飼う人のあるあるなのでしょうね。
運河沿いの使わしめ
主人公の江美は離婚をきっかけに、すさんだ生活を送るようになっていた。
しかし、牡猫の茶太郎の出現によって本来の自分を取り戻すようになる。
茶太郎が江美の前から姿を消した訳はー?
メルヘンチックなおとぎ話のような内容でしたが、なんだかほっこり。
こんな救世主のような猫が本当にいたらいいな~、なんて。
陽だまりの中
息子の辰也を亡くし一人で暮らしている富江のもとへ、彼の子を身ごもっているとやってきた千佳。
千佳を招き入れ、一緒に暮らすようになったがーというあらすじ。
この章に出てくる猫「ヒメ」と「ボス」、そして「ブチ」がいなければ富江の判断・結末は、違ったものなっていたかもしれません。
動物たちから学ぶこともあるんですね。
祭りの夜に
主人公の鞠子は恋人・昌也との関係がこじれ、5年ぶりに祖父母のもとを訪ねた。
祖父は元気だったが、祖母は認知症が進んでいた。
予期せず明るみになった祖父のついた嘘と、昌也のついた嘘が重なり、鞠子の心境も変化するー。
これは切ない話だなあ…。
認知症って、60年前とかのずっと昔のことは覚えていたりするんですよね。
猫を祀る神社だったり、村に息づく猫の気配が感じられた作品でした。
最期の伝言
主人公・亜哉子の父は、自分たちを置いて出て行った。
別の女性と一緒に暮らすためー。
母の死後も否定し続けた存在の父だったが、知り合いから語られた真実は意外なものだった、というあらすじ。
実際に猫は登場しませんが、「猫アレルギー」が皮肉ともいえる形で出てきました。
この流れは予想できませんでした。
真実を知らない方が良かった、という場合もあるでしょう。
が、この場合は知らされたことにより、否定し続けた父に対する思いがプラスに動いたと思いますので、良かったのかな。
残秋に満ちゆく
軽井沢で花屋を営む主人公・早映子のもとへ、かつての恋人である靖幸が訪ねてきた。
謝辞を述べに来たという。
早映子には、疎遠になってしまった一人息子がいたーというあらすじ。
33年ぶりの恋人との再会によって、一人息子との関係性を見つめ直すことになる早映子。
時間の経過が、過去のわだかまりをほぐしてくれることもあるんですよね。
恋愛小説のイロが濃く感じられ、個人的にはこの章が一番好きでした。
軽井沢の自然豊かな景色の描写も、素敵でした。
約束の橋
主人公の幸乃は、ずっと猫たちに囲まれて過ごしてきた。
マル、タロウ、レオ、チョビにリボン…歴代の猫たちと、今までの人生を回想するー。
かつての嫁ぎ先で出会ったタロウの存在が、幸乃を奮い立たせたのではないかと思いました。不思議な猫でした。
個性豊かな猫が次々に出てきた最終章は、一番「猫」を感じられた話でした。
最後に
唯川さんの本は久しぶりに読みましたが、女性ならでは目線や描写が好ましかったです。
この作家さんは好きだなと改めて思いました。
恋愛小説のイメージがありますが、今回紹介した「みちづれの猫」はまた違った作風で楽しむことが出来ました。
読みやすく、さらっと読める一冊です。
2020年も、いい本に出会えますように。