乃南アサ「マザー」について
乃南アサ著「マザー」は、2024年8月に講談社から発売された短編集。
全252ページ。初出は「小説現代」2024年5・6月合併号。
春をすっとばして初夏のような日もあった4月が終わろうとしていますが、ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしょうか?
わが家はそれぞれに過ごす連休、という感じです。私は遠出はせず、本を持って県内をうろつく感じでしょうか。
さて、今日紹介するこの本、面白過ぎて読みながら鳥肌が立つ感じでした。
こんな感覚、久々!
読み始めたら、一気です。5篇収められているので、1篇ずつ読もうかな、なんて考えて読み始めましたが、最後までいってしまいました。本当に面白かった。
乃南アサ「マザー」のあらすじと感想
セメタリー
主人公は、故郷を離れて社会人として暮らす藤原岬樹。
彼が思い出す幼い頃の記憶は、家族の仲が良く、笑いの絶えない一家だったということ。当時の家族構成は、祖父母、両親、兄と姉。
やがて兄弟らが家を出て、岬樹も進学を機に上京。
新型コロナウイルスの影響で、4年ぶりとなった帰郷で、彼は驚くべき変化を目にすることになったのだったー。
タイトルはセメタリー、つまり墓地ですね。
ほんわか、のんびりとした物語の始まりから「墓地」とのつながりが見えてこなかったのですが、そうきたか!の結末。
主人公が過去を回想しながらのストーリー展開は、読み手までも引き込まれるような心地に。
自身の結婚、兄弟たちの人生のステージの変化、家族の喪失。
明るくて太陽のような存在だった母。
特に珍しいこともなく、というところからの衝撃ときたら。
ワンピース
冴子は母の四十九日の法要を終え、相続放棄することを決めた。
本来ならば兄と折半するところだが、兄には生活する経済力がなく、冴子は比較的余裕のある暮らしをしているせいだ。60間近の兄は、かつて外科医として働き、家庭を持っていた時期もあったが、うつ病を患い無職に。離婚を経て、母と暮らしていたのだったー。
かつては「自慢の兄」だったはずなのに、母の悩みの種になってしまっていた現実に、やり切れなさを覚えます。順風満帆に思えたような人生も、挫折からの立ち直りがうまくいかなかったことで、想定していなかった状況に陥ってしまうのかな…。
しかし、その兄が母の一周忌を待たずして再婚した、というのです。
これは一体!?という冴子の気持ちは、複雑。
相手のことを尋ねるも、すぐには答えようとしない兄。
不安な気持ちで兄が暮らすマンションを訪ねた冴子が見たものはー!これ、吐き気するくらいこわ過ぎる。
ビースト
主人公は、還暦を迎えたばかりの柏木美也子。
7年前に親の反対を押し切って結婚し、家を出ていった一人娘の和美が、「アパートを追い出されることになった」と美也子を頼ってきた。離婚し、2人の息子たちと暮らしているという。
夫を亡くし、パート勤めの日々を過ごしているが、孫たちと暮らすのも楽しいかもしれない、と思ったのだったー。
娘を不憫に思い、同居を決めた美也子でした。しかし、思い描いていたような平和な日常とは程遠い生活が待ち受けていたわけで。
一階で暮らす美也子と二階暮らす和美たちは、次第に別々の暮らしを送るようになります。
幼かった2人の孫も、やがて高校生と中学生に。
ビーストって、どんな意味だっけ?検索してみて納得!
獣、野獣、モンスター…
親子の関係、というか距離感って難しい。
最後に
今回の記事では、前半の3編をざっくり紹介しましたが、ラストの「アフェア」もぜひ読んでいただきたい。
切ない一作、となっております。
様々な「母親像」が描かれた素晴らしい短篇集。
手元に置いておきたい本が、また一冊増えました。