乃南アサ「軀 KARADA」について
乃南アサ著「軀 KARADA」は、2021年12月に文春文庫から発売された短編集。
全297ページ。5編の作品が収録されています。
※単行本は1999年に刊行。
巻末の解説は、朝宮運河氏。
どれも「軀(からだ)」にまつわる、ちょっとこわい話です。
それぞれのあらすじと感想をまとめます。
乃南アサ「軀 KARADA」のあらすじと感想
臍(へそ)
高校2年生の娘・未菜子が、「臍の整形手術をしたい」と言いだした。
母親の愛子は困惑するが、根負けして美容外科のカウンセリングへ付き添いで行くことになりーという話。
高校生の頃って些細なことが気になる年頃ですから、未菜子の気持ちも分からなくはないのですが…。美容外科の先生、商売上手!
付き添いで来た45歳の母親に「シワ、気になりませんか」とか言ってしまう。
愛子の決断と、この一家の反応に注目。
フェイスリフトという皮膚を引っ張り上げる手術法を、事細かに解説される箇所が、痛そうで痛そうで。
そして、ラストが衝撃。
血流
痴漢で逮捕される、妻帯者の男が主人公。
妻は子供を連れて実家に帰ってしまうが、ほどなくして戻ってくる。
主人公とその母親、妻と子供との凡庸な暮らしに戻りつつあったのだがー。
この章は、始終気持ちが悪かったです。
主人公が、変わった性癖を持つ男。痴漢野郎。
でも、異常な人間の心理と結末が気になってつい読んでしまう。
実在しそうな案件だけに、おそろしい。
つむじ
頭髪の薄毛が気になりだした、27歳の男性が主人公。
彼は恋人との将来よりも、薄毛をどうにかしたい。
大学の先輩からの「治験段階の薬を使ってみないか」という話に飛びつくがー。
今すぐ結婚するつもりはないものの、「自分がはげたら、恋人はどうするだろう」と思い悩む主人公。
20代の男性にとっては深刻な悩みのようにも思えます。が、女性ってそれほど男性の薄毛を気にしていないように感じます。人によるのかもしれませんが。
それにしても、この彼女、なかなかです。
打ちひしがれる結末。
尻
地元を離れ、渋々ながら東京の女子高に進学することになった弘恵。
寮での暮らしにようやく馴染んできた頃、寮生から「お尻が大きい」と指摘され、尻のことが頭から離れなくなる事態に。痩せようと試みる弘恵だったがー。
高校生が他人からお尻が大きい、と言われるのはショックです。
上京したての弘恵にとっては、都会の人特有のハッキリとした物言いに免疫がないだろうし、気にしてしまう気持ちも大いに理解できますが。
小さな尻のために、ダイエットに励む弘恵の行く末はー。
恵まれた環境にうまれても、活かすも殺すも結局は自分次第なのかもしれません。
あっという間に立場が変わってしまう、というのもよくあることだよなあ、と思いゾクゾクしました。
顎
中卒で働く15歳の敦は、職場の先輩から執拗な嫌がらせを受けていた。
あてもなく夜の街をさまよっていると、フードを被った男がふいに現れ「顎を狙え」と話しかけてきた。以後、この男が度々敦の前に現れるようになる。
敦はこの後、ボクシングを習い始めます。
やり場のない怒りに満ちていた彼でしたが、次第に精神も安定してきまして。
この章の主人公が、本編の作品の中では一番厳しい立場に置かれているように思いました。頼る相手も、帰る故郷もありません。
フードを被った男の正体に、驚愕。
まとめ
どの短編も、確実に面白い。
「軀(からだ)」をテーマにしてはいるのですが、全く違うストーリーで、主人公の立場もばらばら。
すごいなあ。
どうやって思いつくのだろう?
乃南アサさんの本は、どの本も満足させてくれるのです。