まつりパンライフ

家で焼いたパンと読んだ本の備忘録、愛用のキッチングッズの紹介をしています

乃南アサ「チーム・オベリベリ」のあらすじと感想

乃南アサ「チーム・オベリベリ」の表紙画像

 

乃南アサ「チーム・オベリベリ」の登場人物

乃南アサ著「チーム・オベリベリ」は2020年7月に講談社から発売された小説。

全667ページ。

 

「群像」の2018年12月号~2020年6月号までの連載を、一部改稿したとのこと。

なお、この作品は史実を基にしたフィクションです。

 

この「チーム・オベリベリ」は去年出た作品なのですが、書店パトロールも控えていた頃だったせいか、つい最近知りました。林真理子さんのユーチューブで。

 

林さんが乃南アサさんの本を紹介している(!)という、なんとも贅沢な動画。

ぜひご覧ください。

両者のファンである私は、なんてこと!と叫んでしまいそうになった次第。

 

600ページを超える長編小説なので、かなりの分厚さ。

林さんは、分厚いながらも「一息に読めた」とのことでしたが、なるほどこれは読む手が止まらない。面白いのなんの。

とはいえ、何だかんだと5日くらいかかってしまいました。

 

あらすじと感想の前に、主な登場人物の紹介から。

 

鈴木カネ 主人公の女性。上田藩士の長女として生まれる。

鈴木銃太郎 カネの兄。元牧師。キリスト教徒。

鈴木親長 カネの父。

渡辺勝 カネの夫。銃太郎の神学校の同級生。

依田勉三 伊豆の資産家の三男。

依田佐二平 勉三の兄。依田家の長男。

 

乃南アサ「チーム・オベリベリ」のあらすじ

依田勉三、鈴木銃太郎、渡辺勝の3人は、北海道の地を開拓すべく株式会社「晩成社」を立ち上げ、移住を決意。

 

物語の語り手となるのは、横浜の女学校で教鞭を取っていた鈴木カネ。

カネは兄・銃太郎の友人である渡辺勝の妻となり、父らと共に北海道へ渡る。

明治16年(1883年)のことー。

 

キリスト教徒である彼らが、アイヌの人々と助け合いながら開拓民として暮らしていた日々の物語。

 

チーム・オベリベリ

 

乃南アサ「チーム・オベリベリ」の感想

今から約140年前の、北海道の帯広。

高等教育を受けた若者たちが、何人かの希望者と共に開拓をスタートさせます。

何もないところで、厳しい自然に立ち向かっていきます。

 

主人公のカネが、とにかくすばらしい。よくできた女性です。

野心を持って行動に移した男たちはもちろんなのですが、やはりどうしても主人公のカネに感情移入してしまいました。

 

母親から反対されながらの、北海道行き。

愚痴をこぼす相手も、相談相手もいない。

子を産み育てながら必死に働き、学ぶことを忘れずに暮らす日々です。

 

カネは、さぞ心細かったろうと思いますが、信仰の心を大切にしながら前向きに生きる姿は、とてもしなやか。

 

乃南アサ著「チーム・オベリベリ」の背表紙画像

 

作中の依田勉三の振る舞いときたら…。

悪気はないのでしょうが、もう少し思いやりの気持ちが欲しかったなあ。

 

北海道の過酷な自然の中、開拓民たちが手さぐりで始める農業や畜産。

収穫間近の農産物が霜や害虫(バッタ)にやられたりして、思うように収穫出来ない年が続きます。

 

さすがに滅入ってしまいそうなところですが、カネは祈りを捧げながら、粘り強く立ち上がります。

彼女にとっての信仰は、窮地に立たされたときに希望を見出せる拠り所、だったのかもしれません。

 

ところで、先住民であるアイヌ民族は、自然界にあるものを無駄なく利用し、工夫しながら生き延びてきました。

アイヌ語を話す彼らとカネたちは、言葉も思うように伝わらなかった部分もあったようですが、昔ながらの知恵には随分と救われたさまが描かれています。そして、アイヌとの恋愛も出てきます。

 

あくまでもフィクションなのですが、実在した方がモデルとなっていると思うと感慨深いものがあります。

最後に補遺として、彼らの後日談や生涯、晩成社のその後が記されています。

 

まとめ

乃南アサさんというと、ミステリーの印象が強いのではないでしょうか。

かくいう私も、最初に読んだのはミステリー作品でした。

その他のジャンルも出されていますが、どれもこれも間違いなく面白く、尊敬する大好きな作家です。

 

林さんが仰るとおり確かに本作は、何か大きな事件が起こる、とかそういう話ではないのですが、読ませます。

開拓民の話、として片づけてしまえばそれまでなのですが、乃南さんの手にかかるとこれほどまでに素敵な話になるのか、と。

 

読み切れるのか?と心配したほどとても長い話でしたが、途中で挫折することなく、楽しく読み切ることが出来ました。

 

上下巻として出版してもいいくらいの分厚い本ですので、手で持ったときには驚いたものです。

時間がある方もそうでない方も、ぜひ読んでみて下さい。

 

「チーム・オベリベリ」の本扉

 

チーム・オベリベリ