窪美澄「トリニティ」の主な登場人物
- 木下鈴子 72歳(昭和20年生まれ)。東京の下町で育ち、出版社に一般職として入社したのち専業主婦となる。夫を亡くし、都内のマンションで一人暮らし。
- 佐竹登紀子 79歳。祖母と母が物書きで、何不自由なく恵まれた環境で育つ。大学を中退し、自身もフリーランスのライターとして活躍。
- 藤田妙子(早川朔) 昭和16年生まれ。岡山県生まれ。生い立ちは複雑だが(母親に一旦捨てられる)、イラストレーターとして活躍。
- 服部満奈美 鈴子のひとり娘。結婚・出産を経て仕事に復帰。
- 服部奈帆 鈴子の孫。 ブラック企業に入社し、体調を崩して休職。
窪美澄「トリニティ」あらすじ
主人公は、鈴子、登紀子、妙子(朔)。
1964年、3人は銀座の出版社・潮汐出版で出会う。
高校を卒業後、一般職として潮汐出版に入社した鈴子は、寿退社を望み、24歳で家庭に入った。
26歳のときにフリーのライターとして仕事を始めた登紀子は、結婚後も自由に恋をして仕事もこなし、稼ぎの少ない夫の生活を支える。
朔は田舎から上京して美大を卒業し、23歳という若さで週刊誌の表紙のイラストを描くことになるが、結婚後はスランプ・子育てに悩むようになる。
三者三様の生い立ち・幼少期・学生時代の過ごし方や家庭環境、結婚・キャリアに対する思いが綴られている。
今から50年以上前の、東京オリンピック前後の東京の様子・風景もよくわかる。
「トリニティ」は、キリスト教における三位一体を意味する。
実在の人物・雑誌などをモデルにしたフィクションである。
との記載あり。
2019年3月に新潮社から発売。461ページの長編。
初出は小説新潮(2017年4月号~2018年6月号)。
第161回直木賞候補作。
窪美澄「トリニティ」の感想
妙子(早川朔)の死をきっかけに3人の過去を辿っていく話なのですが、読みやすくてあっという間に読了。
私の率直な感想としては読みごたえがある作品だった、というものです。
1964年以降に活躍した女性たちがどんな思いで過ごしてきたのか、どう扱われていたのかが感覚的に理解できたように感じました。
フリーランスでやっていく難しさは今も昔も変わらず、実力次第なのでしょう。当時から銀座や六本木は華やかな世界だったんですね。
登紀子が放った「女だって自由に生きていい」という言葉や、彼女がお見合いに異を唱える姿が逞しかったです。
実績があるから胸を張り、自信を持って言える言葉ですよね。
仕事・子供・結婚において、選ばなかった道を考えること…どうしても考えてしまいますし、今後もそういう局面はあるのでしょうが、どの選択をしたとしても後悔はしない方がいい、というのが今の私の思うところです。
専業主婦である鈴子の立場が、他の二人と対等に描かれていた点に好感を持てました。
孫である奈帆の将来に期待してしまいます。
※以下、多少のネタバレを含みます。
未読の方で「誰をモデルに描いた作品なのか」を知りたくない方は飛ばしてください。
あらすじにも書きましたが、「実在の人物をモデルにしたフィクションである」とあったのが気になり、途中で巻末のページを見てしまいました。
すると参考文献の中に「大橋歩」さんの名前が!
作中に登場する「イラストレーター・早川朔」は、大橋歩さんをモデルに書かれたものだったんですね。
参考文献にある「平凡パンチ」も大橋さんのエッセイで初めて目にした名前でしたので、ちょっと興奮してしまいました。
作中に登場する「潮汐ライズ」は平凡パンチをモデルに描かれているのでしょう。
10年くらい前?に大橋歩さんのエッセイにハマり、一通り入手しました。一ヶ月間で手に入る本は全て読み漁った経験があるんです。
自分が育ってきた環境や家族・子育て・日常のことなどを綴ったエッセイが面白くて読みやすくて。
私が特に好きだったのは、食べ物と飼い犬「ダルマー」についてのエッセイですね。
大橋さん自身が描かれた挿絵がほっこりさせてくれます。
今も本棚の一画には彼女の本があるはず…。
ご主人が美大卒だとか、一人息子がいるとか、本名ではなく男性のような名を名乗るように言われたことだとか、エッセイで読んだ記憶が蘇ってきました。
大橋さん、今も元気に活躍されていますよね。
彼女のインスタもフォローしています。
大橋さんのエッセイも面白いので、ぜひ読んでみて下さい。
最後に
最近の私の読書の傾向としては再読が多かったのですが、今回は珍しくお初の作家さんの本を手に取りました。
きっかけは「直木賞候補作」として書店に並んでいた中で、なんとなく表紙が気になって読んでみようと思ったのです。
まだ窪美澄さんの作品に出会ったばかりの状態ですが、「この人の執筆した本をもっと読んでみたい」と思える作家さんでした。
過去の作品も読んでみようと思っています。