芦沢央「カインは言わなかった」の登場人物
芦沢央さんの「カインは言わなかった」は、2019年8月に文藝春秋から発売された長編小説。
主な登場人物の紹介です。
- 嶋貫あゆ子 岩手県出身の大学生。誠の恋人。
- 藤谷誠 バレエ団・HHカンパニーの団員。舞台「カイン」の主役に抜てき。
- 誉田規一 HHカンパニーを立ち上げた、元振付師。芸術監督。
- 尾上和馬 HHカンパニーの団員。あゆ子の同級生で誠のルームメイト。
- 藤谷豪 誠の4つ下の異父弟。父はフランス人。美大卒で絵描き。
- 皆元有美 豪の恋人。不動産会社勤務。
- 松浦穂乃果 3年前に熱中症で死亡したHHカンパニーの団員。
- 松浦久文 穂乃果の父。
全357ページの書き下ろし作品です。
芦沢央「カインは言わなかった」のあらすじ
「カインは言わなかった」のあらすじを簡単に記します。
誉田規一率いる「HH(ダブルエイチ)カンパニー」の舞台・カインの主役に抜擢された藤谷誠。
誠は公演3日前、恋人であるあゆ子に「カインに出られなくなった」とメッセージを残し、連絡を絶つ。
誉田は尾上和馬にカイン役の指導を行うが、その思惑は…。
誉田のパワハラとも言える厳しい指導に音を上げて退団する者もいる中、苦しみながらも応えようとする団員たちの姿は、しなやかで美しくもどこか切ない。
あゆ子は音信不通になった誠の行方を追う。
誠に何があったのか?
著者、2年ぶりの長編ミステリー。
芦沢央「カインは言わなかった」の感想
まず感じたのは、取材が大変だっただろうなあという点です。
作中にはバレエや絵画の芸術的な表現が多く、正直なところ、理解するのが難しく感じてしまう部分もありました。
しかしながら描写がリアルなので、躍動感あふれる踊りの迫力は伝わってきます。
誉田の指導には、読み手のこちらまでもがハラハラさせられました。
団員たちにとって誉田は「絶対」であるわけですし、命がけです。
表現者として想像力を高めていく中での戸惑い、もがく姿は眩しい。
誠の身に何が起きたのかを追っていくというミステリー作品なのですが、美術・芸術作品に精通している方にも手に取って欲しいです。
豪の恋人、有美の乙女心が切なかったです。
豪は気まぐれで、とらえどころのない男だけど憎めない一面もある。
幸せにはなれないと分かりつつも、そういう相手を好きになってしまう気持ち、分からなくもないです。
こういう恋愛って疲れるんだよなあ!などと陳腐な感想…スミマセン。
要所要所に東日本大震災が描かれており、ああ、風化させてはいけないんだなと思いました。
尾上和馬とあゆ子の出身地は岩手県で、尾上は親戚を亡くしている。
誉田は津波で妻を亡くしており、HHカンパニーも震災によって風向きが変わった。
一方のあゆ子は沖縄旅行に行っていて難を逃れたものの、周囲のからの視線は冷ややかなもので、故郷を離れて東京へ出てきたのだ。
これは表紙の内側に書かれてある文言ですが、読み終えてから眺めると腑に落ちます。
「カインは言わなかった」というタイトルも然り。
最後に
芦沢央さんの前作「火のないところに煙は」はインパクトがあったので、今回の新刊も楽しみにしていました。
その前に読んだ「許されようとは思いません」で彼女の作品を初めて知ることになったのですが、この短編集も面白かったです。
※中瀬ゆかりさんが推薦していた一冊。
芸術に疎い私ですが、厳しい世界なのは理解できますし、心身ともに追い詰められていくダンサーたちの緊張感がすごかったです。
文字で読んでも、ものすごい熱量です。
とっても個人的なことなのですが、今年旅行で訪れた金沢の街が出てきて懐かしかったです。木造の建物が並ぶ「ひがし茶屋街」、素敵だったな。
小説の中で自分が訪れたことのある土地が出てくるのって、なんか嬉しいですよね。
それが故郷だったりすると、なおのこと。
話が大幅にそれました。
普段から観劇していらっしゃる方は、より楽しめるミステリー作品なのではないかと思います。