芦沢央「汚れた手をそこで拭かない」について
芦沢央著「汚れた手をそこで拭かない」は2020年9月に文藝春秋から発売された、ミステリー短編集。
全237ページ。
5本の短編(ミステリー)が収録されています。初出は「オール讀物」。
※「忘却」は、書き下ろし作品。
それぞれ、独立した物語です。
では、あらすじ&感想をまとめます。
芦沢央「汚れた手をそこで拭かない」のあらすじと感想
ただ、運が悪かっただけ
末期癌で余命半年の十和子は、残り少ない日々を自宅で過ごしていた。
夫から「人を死なせたことがある」との告白を受けるー。
中盤は「夫」の回想シーンなのですが、人をなじる場面というのは嫌な気分になりますね。
それにしても、十和子の推理!
理屈っぽいというのは悪いことばかりではないのかもしれません。
真実にたどり着けて、ある意味私も救われました。
埋め合わせ
小学校の教員をしている秀則は、プールの水が抜けていることに気が付き、自分のミスを隠し通そうとするがーというあらすじ。
気が小さいせいか、ハラハラしながら読み進めました。
隠してたってバレるんだから、さっさと謝っちゃえばいいのに(!)、なんて思ったりもして。
結末は、予想できない驚きの展開。
悪知恵が働くと言うか、なんというか…。
忘却
主人公・武雄の隣人の笹井が、熱中症で孤独死した。
電気代を滞納していたというが、ボケはじめた妻と暮らす武雄にとっては、気がかりな情報だったー。
※本編のみ、書き下ろし作品です。
配達ミスにより笹井宛の督促状が武雄宅に届き「渡しておく」、と言っていた妻がその件を忘れてしまうという後味の悪い話と思いきや…!
人間の裏の顔を見てしまったような、ゾクッとする気持ちに。
お蔵入り
映画監督の大崎に、チャンスが巡ってきた。
しかし主演を務めるベテラン俳優の岸野には、薬物の使用疑惑があるという。
公開中止は避けたいと願う関係者たちはーというあらすじ。
チャンスを掴もう、ともがく主人公の心理描写が巧みでした。
感情移入してしまいそうになるも、事態はどんどん悪くなる一方で窮地に立たされます。
人の恨みというのは恐ろしい、と改めて実感。
ミモザ
主人公は料理研究家の女性。
彼女のサイン会に、かつて不倫していた男性が現れた。離婚し、生活が苦しいという。
お金を貸してほしいと言われ、渡してしまうーというあらすじ。
もう、このあらすじをまとめただけで嫌悪感を覚えます・笑。
不倫をしていたのは9年前の話です。
この男性のふてぶてしさには、とにかくイライラさせられました。
手段が、とにかく狡猾なんです。
そして主人公の女性の配偶者。優しいのですが、ちょっと変ですね…。
まとめ
読んでいると、嫌な気持ちがこみあげて来る本でした。
物事がどんどん、ネガティブな方向へと行ってしまう過程が怖い。
冒頭を読んで「あっ、これ読んだな。」というものも、いくつかありました。
失念しておりましたが、どうやら一昨年の「オール讀物」で読んでいたようです。
(気になる作家さんの名前があると、たまーに読んでいる「オール讀物」。)
就寝前に1編ずつ読んでおりましたら、連日悪夢をみました。
昼間に読むべきだったなと後悔しましたが、ここまでのミステリーを描ける著者の芦沢さんてすごいですよね。