村上春樹「一人称単数」について
村上春樹著「一人称単数」は2020年7月に文藝春秋から発売された短編集。
全235ページ。
8本の短編が収録されています。
初出は「文學界」。最後の作品は書き下ろしです。
うまく言えないのですが、村上春樹さんの作品って中毒性があるように感じます。
読めば読むほど、のめり込んでしまいます。
学生時代に読み始め、かれこれ何年になるのか…はいいとして(笑)、とにかく大好きな作家さんの一人です。
いくつかをピックアップして、あらすじと感想をまとめます。
村上春樹「一人称単数」のあらすじと感想
石のまくらに
「僕」が大学二年生の頃に出会った女性について語る話。
「石のまくらに」というのは、彼女の歌集のタイトル。
名前も顔も覚えていないというのに、記憶の回路とやらな不思議なものだな。
クリーム
18歳の「ぼく」が年下の女の子から演奏会の招待状をもらい、会場に向かうがーというあらすじ。
公園の四阿(あずまや)で出会った老人から「人生のクリーム」についてのレクチャーを受けることになるのだが…。ふむ。
ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles
「僕」が今でもよく覚えているという、一人の女の子。
「ウィズ・ザ・ビートルズ」のLPを胸に抱えていた、美しい少女ー。
ビートルズの人気絶頂の頃の話が転じ、ガールフレンドができたという流れに。
(LPを抱えていた少女ではない。)
「僕」は意図せずにガールフレンドの家族と会話することになります。
その18年後(!)、彼らは偶然にも都会で再会することになるのですが、男性同士の、とりとめのないようでいて実は深い話というのは、盗み聞きして楽しんでしまったような不思議な感覚に陥りました。
謝肉祭 (Carnaval)
「僕」が友人の紹介で知り合った醜い女性「F*」の話。
彼女の趣味の良さ・音楽の好みに好感を持った僕は、音楽談議をする仲になっていくーというあらすじ。
冒頭からいきなり強烈な表現が出てきて面食らいました。そこまでこき下ろせるか、というほどにF*の外見の醜さを述べる主人公。
しかしこの点が、物語に奥行きを持たせているなとも感じました。
シューマンの「謝肉祭」ってどんなだったかな。
品川猿の告白
「僕」が群馬県の旅館で出会った猿についての話。
この猿は人間の言葉を話します(!)。
主人公と色々な話をする中で、猿が「ある告白」を…。
浮世離れした設定の話ですが、なぜか心惹かれ、ずっとずっと読んでいたいと思わせてくれる、ものすごく好きな作品。
いくつかをピックアップして、ざっくりとしたあらすじ&感想を書いてみました。
その他「ヤクルト・スワローズ詩集」では、スワローズ愛が語られています。
スポーツ全般、よく分からない身としては「ほおー」としか言えないのですが。
ラストの書き下ろし「一人称単数」での主語は「私」。
しばしば出てくる、独特の比喩の表現。
終着点があるのかないのか。話が進んでいるのかさえ分からなくなってしまう。
儚いような独自の世界観…それが、魅力でしょうか。
最後に
どちらかというと長編作品が好きな私ですが、この短編集はとても面白かったです◎
作中に出てくるコーヒーの描写を目にし、幾度となくブラックコーヒーが飲みたくなりました。
8作品のうち、いくつかはどこかで読んだような…と思ったら、やはり「文學界」で発表されていました。
文芸誌も時々読むのですが、めちゃくちゃ豪華な顔ぶれですよね。
最後に読んだ著者の作品は、騎士団長殺し。
これは長編作品です。とっても良かった◎
読み返すたびに、違った印象を与えてくれる村上作品。再読してみるのもいいかな。