宮部みゆき「さよならの儀式」について
宮部みゆき著「さよならの儀式」は2019年の7月に河出書房新社から発売された短編集。
8つの短編が収録された一冊で、全413ページ。
初出は河出文庫「NOVA」、「小説すばる」、講談社「ヴィジョンズ」等です。
掲載時期は2010年~2018年。
今回初めて存在を知った「NOVA」ですが、SFの専門誌なのですね。
それぞれのあらすじと感想を簡単に記しておこうと思います。
宮部みゆき「さよならの儀式」のあらすじと感想
母の法律
「マザー法」という法律によって、養父母のもとで暮らしていた主人公の二葉。
しかし二葉が16歳のとき、養母の死によって「グランドホーム」という施設に戻されることになる…というあらすじです。
「マザー法」という法律は実際にはありませんが、違和感なく話に入り込めたのは宮部さんのうまさだろうなと思いました。
戦闘員
主人公の藤川達三は、散歩中に奇妙な光景を目にする。
少年が防犯カメラを壊そうとしているのだ。
果たして少年の目的は?というあらすじ。
老人の生活に突如現れた、突飛な出来事。
頑張れ「戦闘員」!とエールを送りたくなるような話でした。
わたしとワタシ
実家へ向かった主人公の「わたし」は、30年前の「ワタシ」に遭遇。
高校生のワタシがタイムスリップ→45歳のわたしと対峙するという話。
この作中のワタシは、未来の自分に向かって容赦ない言葉を投げつけるわけなのですが…
自分が高校生の頃を思い出しても、あの頃はずいぶん尖っていたな~なんて思ってしまいました。
ときおり目にする「エスペラント」がちらっと出てきて驚きました。
エスペラント、気になるんですよね。
さよならの儀式
長年使用し、老朽化したロボットとのお別れを描いた話です。
近い将来、ロボットが当たり前に作業する光景をみることになるのでしょうか。
作中の登場人物の心情を思うと、なるほど確かにロボット相手に情がわいてくることもあるでしょうね、と思ってしまいました。
いい話でした。
星に願いを
高校生の主人公・深山秋乃は、10歳違いの妹・春美と母親と3人で暮らしている。
春美が突然不調を訴え、通常の学校生活が送れなくなってしまった。
原因は?という話です。
時折登場する父親にしても、担任の教師にしても、登場する大人たちの癖が強すぎ…!
おかげで、飽きることもなく楽しみながら最後まで読み進めることができました。
聖痕
千川調査事務所に寺嶋という男が、息子・和己の相談に来た。
和己が妙なものを見たというので、その調査を依頼するためだ。
和己には14歳のときに実母とその内縁の夫を刺殺した過去がある-。
彼が見たものの正体は?という話。
「聖痕」の前半は、社会派ミステリーのようなストーリーの構成になっていました。
ああ、宮部さんの描く物語だなあ、という感じです。
しかし中盤で救世主(メシア)等の、普段耳にすることのない言葉が出てくるあたりから、そうだこの本はSFの本だった!と。
SFの本を読みなれていないせいか、感情移入がなかなか出来ずに戸惑ってしまいました。
海神の裔
死体から新たな生命「屍者(ししゃ)」を生み出す-
「屍者の帝国」を基にした作品とのことです。
ときは明治時代。
青い目をした屍者のトムさんが、漁村に尽力してくれるという話です。
不思議な世界観が広がっていましたが、夢中になって読みました。
こういう世界の話も面白いなあ、と。
保安官の明日
隔絶された町「ザ・タウン」の保安官のところへ、チコという助手がやってきた。
事件が発生したとの連絡が入り、保安官が被害者から話を聞いてみると-という物語。
「ザ・タウン」という町の正体に驚きつつ、救いを求めたいという人間の欲求が描かれており、もやっとしながら考えさせられた作品でした。
最後に
今回読んださよならの儀式 は宮部さんにとって初のSF作品集ということで、帯にも「宮部みゆきの新境地」というコピーがありました。
昔の作品になりますが、「蒲生邸事件」もSF小説でしたよね。
SF作品に苦手意識がある方でも、宮部さんの描いたものは比較的読みやすいと思いますので、ぜひ手に取ってみて下さい。
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