有栖川有栖「カナダ金貨の謎」について
有栖川有栖「カナダ金貨の謎」は、2019年9月に講談社から発売された本。
「国名シリーズ」第10弾。
中編3本と短編2本が収録されています。
全254ページ。
初出は「7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー」、「オール讀物」、「メフィスト」、「ダ・ヴィンチ」。
※2016年から2019年にかけて掲載された作品だそう。
「あとがき」も掲載されていますし、巻末には2019年9月時点での著作リストもあります。
以下、それぞれのあらすじと感想を簡単に記します。
有栖川有栖「カナダ金貨の謎」のあらすじと感想
「船長が死んだ夜」のあらすじと感想
元船長の52歳の男性が殺害された。
便利屋のようなことをしながら町はずれの一軒家で生活していたが、ファンが多かったという。
現場である被害者宅からは、一枚のポスターが消えていた。
一体だれが、なぜー?
「船長が死んだ夜」を読み始めてすぐ、これは既読作品だと認識しました。
初出の「7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー」(2017年発売)で読んだのですが、当時はブログをしておらず…今回は感想を残すため、再び読むことに。
おおまかな流れと犯人は記憶に残っていましたが、含みを持たせた最後の部分を忘れていたので、再読して良かったです。
もしかしたら被害者が殺されることはなかったかも、と考えることも出来る結末は流石。
「エア・キャット」のあらすじと感想
アリスが、先輩作家の朝井小夜子に火村が解決した事件を話して聞かせる、という体の話。
題名の「エア・キャット」とは空気猫。
猫を飼っているふりをしていた男性が殺された、という事件。
火村が意外なところからヒントを得て、無事に犯人にたどりつくのですが、事件が云々よりも、火村の猫に対する思いが存分に味わえる短編でした。
「カナダ金貨の謎」のあらすじと感想
表題作である「カナダ金貨の謎」では、「倒叙」という手法をとっています。
倒叙(とうじょ)とは、犯人と犯行があらかじめ明らかになっている形式を指すもの。
※「古畑任三郎」というドラマをご存知の方は、あのような感じと思っていただければ。
あとがきによると、国名シリーズでは初めて用いたそうです。
あらすじを簡単に。
元劇団員の太刀川公司が、先輩の楓丹次を殺害。
丹次と同棲中の恋人の留守を狙っての犯行だったが、予想外の帰宅によって太刀川の計画が狂わされることにー。
被害者の楓(英語でメイプル)が「メイプルリーフ金貨」を身に着けるという設定もユニーク。
私は結末や犯人を先に知ってから読んだりする、ちょっと(かなり?)変わったタイプ。
しばしば遭遇する倒叙ミステリにおいては、犯人やトリックを先に読む手間が省けます・笑。
犯人側の視点から読むというのは、心の動きが具体的で、違った味わいがあるなと感じます。
普段は描かれることのない、第三者からの火村とアリスの様子の描写が新鮮でした。
アリス側から語られる部分も半分ほどを占めていて、2倍楽しめたような作品。
「あるトリックの蹉跌」のあらすじと感想
JTとのタイアップなのでたばこの話、ではあるのですがー。
学生時代、大教室での火村とアリスの出会いのエピソード。
他学部の講義を聴くなんて、とても考えられない・笑。
後に准教授ともなる人は、学生時代から意気込みが違うんでしょうね。
二人の友情(?)の始まりはここにあったのか、と妙に和む作品。
「トロッコの行方」のあらすじと感想
浮田真幸というネイリストの女性が、歩道橋から転落して死亡。
死ぬ寸前に「いきなり後ろから背中を」「コノタカリヤッテ」等の言葉を残していることから、事件と断定。
真幸には八野という愛人がいて、パトロンだったという。
その娘からはよく思われていなかったという。
被害者が残した言葉「タカリヤ」は「集り屋」ー。
八野の周辺の人間から発せられた「集り屋」だったのか。
果たして犯人は?というあらすじ。
この章の冒頭では「トロッコ問題」の件が描かれています。
制御できなくなったトロッコ(トロリー)の分岐をどうするか、という思考実験ですね。トロッコの先にいる5人を助けるか、1人を助けるか。
最後に明かされる犯人の動機は身勝手で全く理解できませんでしたが、「トロッコ問題」がここに結び付くとは…!
最後に
安定の「国名シリーズ」も、もう10弾になるんですね。
前回読んだ国名シリーズ「インド倶楽部の謎」の記事はこちらです。
火村とアリスのかけあいが好きなんです。
あとがきによると、国名シリーズはしばらく続けたいとのこと。
早くも次回作が楽しみです。