桐野夏生「砂に埋もれる犬」の登場人物
桐野夏生著「砂に埋もれる犬」は、2021年10月に朝日新聞出版から発売された小説。
初出は「週刊朝日」2020年2月~2021年2月の連載。単行本化にあたり加筆修正を行ったとのこと。全494ページ。
読もう読もう、と思っていて後回しになってしまっていた作品です。
ネグレクトを扱っているという情報だけは入っていたので、気持ちが落ちているときはあえて避けていた、というのが本音です。
しかし、読み出したら一気に読んでしまっていました。500ページ近くの分厚い本です。そう明るい話でもないのですが、引き込まれましたね。
あらすじと感想の前に、主な登場人物の紹介です。
目加田浩一 コンビニの店長。
目加田洋子 浩一の妻。
目加田恵 目加田家の長女。
谷口 コンビニのパート主婦。
小森優真 目加田のコンビニによく来る少年。
小森篤人 優真の弟。
小森亜紀 少年たちの母親。無職。
北斗 亜紀の恋人。
スズキ 優真たちの暮らすアパートの隣人。
福田 児童相談所の職員。
淵上 児童相談所の職員。
熊沢花梨 優真の同級生。
桐野夏生「砂に埋もれる犬」のあらすじ
目加田浩一はコンビニエンスストアで働いていて、妻の洋子は重度脳性麻痺の娘の面倒をみている。
コンビニには、ネグレクトが疑われる少年が来ていた。目加田に、廃棄する弁当をくれと言う。小学校にも通っていない様子だった。
目加田は通報し、少年は保護されることとなる。
里親の元から通学することになるのだが、周囲との距離感がうまくとれず孤立してしまうー。
桐野夏生「砂に埋もれる犬」の感想
主人公の優真は、本来学校に通っていれば6年生のはず。
だが、母親のネグレクトにより学校には通わせてもらえず、食事も満足に与えられていないという日々が続いていたーという書き出しから物語が始まります。
ネグレクトの当事者である小森優真の他、コンビニ店の目加田浩一、母親の小森亜紀の3人が代わる代わる語り手となります。
亜紀は父親の違う2人の息子と、恋人のアパートで暮らしているのです。自身の母親もシングルマザーで苦労した過去があったのは理解できるのですが、最後まで、どうしても亜紀には寄り添えませんでした。貧困から抜け出そうとしない彼女は、この先も誰かに寄生し続けれるのかなあ。
目加田は、優真に手を差しのべます。
優真のように、日常の暮らしの基本を知らずに育ってきた子に対して、他人がどこまで踏み込んでいいのか?は難しい。言葉を受け取る側との相性もある。
まして、思春期という危うい時期。自分を振り返ってみても、意味もなくピリピリしていたような気がします。
子供には帰る家があって、食事が与えられて、学校に通わせてもらって、といったような「当たり前」だと思っていたことが、当たり前ではないのかもしれないという現実。
誰に助けを求めれば良いのかも分からない、立場の弱い者が存在するということを突き付けられた本でした。
まとめ
学校は教科書の勉強だけでなく、社会性を身につけたり他者との接点を持つといった役割もあるのだなと知ったのは、卒業してからでした。
集団行動が苦手だったので、家にいる方が楽しかったような記憶が。
土日が待ち遠しかったものです。
でもそれって、面倒をみてくれていた家族がいてこそ、の話ですよね。
この本のような話が実在するとは思いたくないのですが、実際はあるのです。
辛くて苦しいテーマを扱った一冊でした。
読んでおいて良かった、と思える作品であったことは間違いありません。