貫井徳郎「邯鄲の島遥かなり・下」の登場人物
貫井徳郎著「邯鄲の島遥かなり・下」は、2021年10月に発売された小説。
全540ページ。
初出は「小説新潮」の2019年6月号~2021年1月号。
上巻・中巻とあっという間に読み終え、最後の下巻の発売を楽しみにしていました。これがまた、期待以上の面白い作品でした◎
では、下巻の主な登場人物の紹介を。
勝利 戦争孤児。
信介 一ノ屋の血を引く男。
良子 信介の幼馴染。
静雄 野球好きの少年。
松人 「一ノ屋の後継者」となるはずだったが…。
妙子 松人の妹。
育子 静雄の娘。
貫井徳郎「邯鄲の島遥かなり・下」のあらすじ
終戦直後から現在(令和)までの神生島を描いた、下巻。
時代は流れ、もはや「一ノ屋」を特別視する者も減ってきていた。
かつて栄えていた「一橋産業」は、皆から恨まれる存在に。
復興に奮闘する若者、野球に青春をかけた少年たち、夢を追って島を出る者ー。
それぞれの視点で描かれる、最終章。
貫井徳郎「邯鄲の島遥かなり・下」の感想
下巻は、短編と中編4つの物語(第14部~第17部)で構成されています。
第14部の語り手は、戦争で孤児になった8歳の勝利。
途方に暮れる勝利に、手を差しのべてくれたのが信介。彼は、戦争で顔にひどい火傷を負っていました。
改めて、戦争で失ったものの大きさを感じる章です。
戦争で多くの人が亡くなった中、命が助かったのは何よりですが、身体の一部を失うという残酷な現実がやけにリアルでした。
それでも前を向いて島の復興に奮闘する、信介。
彼は、この章のヒーローです。
島民のための行動力はあるものの、己の恋愛となると勝手が違うのも、人間くさくて良かったです。
章の中盤で現れる、くがから来た「頭巾の男」。
こ、これは。ちっとも思いつかなかった!
続く「野球小僧の詩(うた)」は、甲子園を目指す少年たちの話。
長嶋茂雄が巨人で活躍していた頃の話です。長嶋さんて、すごい人なんだ!とこの章を読んでようやく知ったほど、無知な私。そんな私でも、さくさく読めたスポ根・青春小説。
10代の頃、こんなにも夢中になれるスポーツをプレイして過ごせるって贅沢なこと。
野球の奥深さを知ることが出来ました。
次の「一ノ屋の終わり」は、そのまんまの内容です。
しかし、その訳が複雑。
一ノ屋当主の血筋をひき、後継者とされる松人。しかし彼は、とある事情を抱えていて子孫を残すことが困難なのでした。
「一ノ屋」を存続すべし、と考える父とはうまくいかず。
この問題は、いつの時代もあるのだろうと思います。そして、正解なんてないのかもしれません。それぞれの考え方がありますし。そしてここで、昭和の時代が終わります。
ラストは第17部、「邯鄲の島遥かなり」。
神生島の山が噴火し、島民は東京への避難を余儀なくされることに。
当時高校生だった育子は、都内での生活になじんでいきます。
自分が育子の立場だったら、都内に居続けたいと思うでしょうね。
楽しいし、便利だし。
彼女はその後、ボランティアを志すようになって様々な人と出会いー。という話でした。
上中下巻と感想を書いてきましたが、この本の素晴らしさを知ってもらえたら嬉しいなあ。
上巻と中巻の記事はこちらです。
最後に
ついに下巻も、読み終えてしまいました。
終わってしまうのが寂しいと感じるほど、神生島に愛着が。
全17話の物語です。
実に色々な人物がいました。
それぞれの結末は、明かさないようにしてきたつもりです。
150年間の壮大な歴史が描かれています。
時代は、流れているのですね。
貫井さんの本は(多分)全て読んでいるのですが、今までの作風とはちょっと違うかな?という印象を受けました。私はファンですので、どちらも好きなんですけどね。